前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第54回
わてほんまに よいわんわ

顔を真っ赤にした男が、
訛りのある下手な英語で怒ったように私に言いました。
「6時から夕食だ」
英語を、大きな抑揚のユトランド半島のアクセントで喋るので
「わて、ほんまに、よう、 いわんわ」のアクセントで
「ディナ、イズ、シクス オクロック」と言うようなおかしさです。
英語は単語を置き換えてデンマーク語の語順で使えるので、
英語がついユトランド訛りになってしまうのですね。
寮に入ってもう三日も経っているのだから、
誰だって何時に食事かは知っています。
私は小さく頷いてステンのたくましい体に不似合いな、
おどおどしたような顔から目を逸らしました。

その青年ステンは何でもいいから親切にしようとしたのです。
外国からやって来て心細い私と
友好関係を作るきっかけを作ってくれたのです。
でも私は返事もできないでただ頷いて視線をはずしました。
誠実に対応できないのは自分が未熟だからですが、
私は恥ずかしがるとそういう面が出てきてしまいます。
そんなんでは後でもっと恥ずかしいです。
ドンくさい人と
友達に見られたくないという気持ちが有ったかも知れません。
ステンは恥ずかしかったけれど
「ここは話しかけるべきだ」と思って
緊張に体がこわばりながらも話しかけてくれたのです。
そういう人に返事も出来ないとはいけませんね。
初対面の相手と「値踏みと探りあい」
みたいなことをしないで付き合える人はおおらかでいいです。

その後ステンとも友達になりましたが
「君は初めは何だか解らなかったよ」と言っていました。
私も異文化の中で暮らして、
何が何だか解らなかった自分を見出しました。
価値観も物を見る角度も違う国に住むと、
自分がなにをしているか少しずつ自覚できるようになります。
動物的な無自覚な行動を
「ああ、これはいかんな」と初めて自覚することが多かったです。
それに、日本人の良い所も少しずつ自覚できるようになりますです。
この国の人の良いところのひとつは
「話かけられたら本気で受け止めること」です。
デンマークではこの姿勢が身についている人が多いです。
その他、学ぶことが多いです。
当然のこととしてか、我慢してか、とにかく皆相手の話を聞きます。
そして自分を飾らないで、ありのままを見せてくれます。


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2004年9月30日(木)

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