前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第15回
早くやらんと日が暮れる

開店から1年半たったある日、又近所のインド人の登場です。
彼の創業の店を買わないかという話を持ってきたのです。
我々の店から駅を挟んだ向こう側で、
歩いて10分とかかりません。
その小さな店舗は借りではなくて、
持ち店なので管理費しかかかりません。
持ち店と言っても少し特殊なデンマーク方式なのですが、
その管理費は月に5万円ぐらいでした。

それでも、会計士に見てもらうと
2200万円という値段は相場の2倍で
「べらぼうだから止めろ」と言います。
「しかし我々の機械を有効に使えるので十分に利益を出せる。
一軒だけよりむしろ利益は上がる。
第一これ程度の物件でもあなたは見つけてくれますか?」
と私は反論しました。
しかしそれは
「こちらの能力であって、店の値段には関係ない」
と会計士は言います。
現像会社のイヴァンに訊いても
「それはインド人にからかわれているのだ」と言います。
しかしここがポイントですが、
インド人は
「どこからも借りれないなら、銀行の保証人には自分がなる」
というのです。
これは「渡りに船」です。

自分達のお金を貯まるのを待っていたのでは、
今から3年かかっても「日、暮れて道遠し」です。
私は買うことを主張しましたが、
N君は反対したので別会社を作って
私一人で買って我々の二人の店に卸すことにしました。
友人の息子さんで、
前から写真屋で働きたいと言っていた人がいたので、
二軒目を開くことができました。
他の町の写真屋に私が出稼ぎに行った時に
手伝ってもらったことがあったので安心でした。
随分と無理をした選択でしたが、
ここで手をこまねいてはいられません。
今の店一軒で終わればこの先どうしても行き詰まります。

インド人は私に店を売った直後に
前より大きな店を買って引越しました。
内装に4000万円かかったと言ってましたから、
私が銀行から借りて払った現金はその足しにしたのでしょう。
彼が引っ越した動機は、
店の家賃が上がる予告を受けたのと
時期を同じくして今度の店を買い取らないか、
と提案されたからだそうです。
今から考えると私の借りた銀行の利子は12%もあって、
大変なようですがその頃は普通でした。
それでも機械がフルに稼動してくれれば
五年間で返済しつつ
今よりも余裕ができる予定でありました。


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2004年8月6日(金)

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