前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第14回
ケルンへいかねば

我々の店の記事が新聞に載ったのと同じ時期に
世界の写真業界の大博覧会がありました。
ケルンで二年に一回開かれるフォト・キナです。
「フォト・キナ見なければいかん」と
近所の写真屋のインド人に言われて、
無理をしてドイツまで行くことにしました。
N君は行かないと言うので私が行くことになり、
ホテル代と時間節約のため夜汽車で行くことにしました。

二人用の寝台車に乗りこむと先客がありました。
街中に数件の店を持っているフォト・ディレクの社長で、
彼はドイツのアグファ社の機械でミニラボも最近始めていました。
「わたしゃ何でもほんの少しだけ人より早かったんだよ。
ほんの少しだけね・・・」
この調子だと
フォト・ディレク物語を延々と聞かされるのかな、と恐れ始めた頃、
案外早い時間に
係りの人がベッド・メーキングに来てくれました。
私は夜は極端に弱いので助かりました。
もっとも誰が何していようが、
例えば大事なお客さんが家に来ていても
私は睡魔に負けて先に失礼してしまうのですが。
ディレクおじさんは
「お休み。明日があるからね」
と先に布団にもぐり込みました。
この人は確かに私と反対で人より何でも早めのようで、
この日から数年後にはほとんど店に立たなくなりました。
多くのデンマーク人の理想にする楽隠居の体制です。
デンマークの年金の支給される年齢は六十七歳ですが、
彼は六十歳にもなっていなかったと思います。

大聖堂に隣接したケルンの駅を出て、
そこから鉄橋を渡って会場に向かいます。
駅から会場までずっと写真のパネルが続いていました。
自分たちの毎月の給料も怪しい時期でしたし、
初めて見た博覧会場は眩し過ぎて
不安な気持ちになってしまいました。
ところが幸運にも収穫があったのです。
ドイツからデンマークに進出し始めたばかりの
大手のラボに手がかりができました。
博覧会でイヴァンに紹介されたのです。
今までうちで出来なかった
白黒写真や引き伸ばしなどを頼みました。
イヴァンはその時コペンハーゲン支部長になりたてで、
コペンハーゲンではセールスを始めたばかりなのでした。
数ヶ月の間我々が
超特価の引き伸ばしの宣伝を独占で新聞に載せると、
イヴァンが喜ぶ程の注文がきました。
引き伸ばしの値引きはまだどこもやっていなかったのです。
半値以下で売ってもまだ我々に利益が有って、
品質はどこの店のものより良かったのです。


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2004年8月5日(木)

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