| 第77回全国でも珍しい木造校舎の温泉宿
 水上温泉から利根川の源流へ向かって遡上すること、約30分。
 洞元湖(どうげんこ)に注ぐ木ノ根沢のほとりに、
 群馬県最北端のいで湯、湯の小屋温泉があります。
 新潟県と福島県との県境に位置する一帯は「藤原郷」と呼ばれていますが、
 万葉集に「葉留日野(はるひの)の里」と詠まれた
 奥深い山里で、奥州藤原の落人(おちうど)伝説が残っています。
 その昔、この付近に領主が罪人を山流しにした際に、
 番人が小屋を建てて住んだので「湯の小屋」の名が付いたと
 言われています。
 現在、渓流沿いに5軒の温泉宿が点在しています。
 坂道をのぼると、懐かしい木造校舎と校庭が見えてきます。「葉留日野山荘」は、昭和48(1973)年に廃校となった
 山の分校を、改築した温泉旅館です。
 「最初は、都会の子供たちを集めて、冒険学校を始めたんです」
 と、主人の高橋信行さんは言います。
 冬のスキー教室、春の雪遊び、夏の沢登り、
 秋のススキ小屋作りなど、自然を相手の野外活動を続けてきました。
 冒険学校を閉校した現在は、息子さん夫婦とともに、
 自然と温泉を求めてやって来る旅人たちを迎えています。
 浴衣に着替えて、山荘内を歩くと、なんとも不思議な感覚になります。
 廊下も手洗い場も、当時の小学校のままです。
 職員室と理科室は、そのまま談話室に。
 講堂だった場所は、改装され食堂になっています。
 浴室棟へは、いったん校舎から出て、校庭を横切ります。建物は、素朴な昔の湯小屋風。
 透明でサラリとした癖のない湯が、浴槽全体から存分に
 かけ流されています。
 部屋にもどって、くつろいでいると、廊下からチャイムの音が聞こえてきて、
 「夕食の準備ができました。食堂にお越しください」
 との校内放送が……
 懐かしさで、胸の奥がジーンと熱くなる、全国でも珍しい木造校舎の温泉宿です。
 
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