第63回
傍若無人の湯ガール
平成の日帰り温泉ブームは、
思わぬところに弊害をもたらしているようです。
それは、入浴マナーの低下です。
入浴前に、かけ湯をするのは基本中の基本ですが、
浴室に入るなり、そのままドボーンと
湯舟に沈んでしまう人がいます。
見ていると、若い人よりも中高年に多いのですから困ったものです。
日帰り温泉施設の浴室には、
「体を洗ってから入りましょう」と注意が書かれていますが、
これは何百人と入る公衆浴場でのマナーであり、
源泉かけ流しの温泉では必ずしも当てはまりません。
特にアルカリ性の温泉には、
石けん同様の洗浄効果がありますから
体を洗ってしまうと二度洗いすることになるため、
肌の弱い人は注意が必要です。
あくまでも体を清め、湯に体を慣らす程度のかけ湯で充分です。
よく通ぶって「温泉成分が流れてしまうから、
最後はシャワーを浴びないほうがいい」と言って、
そのまま湯から上がって行く人を見かけますが、
これもすべての温泉に当てはまることではありません。
循環式で塩素消毒がされている浴槽ならば、
シャワーで洗い流したほうが賢明です。
また源泉かけ流しの温泉でも、
酸性やアルカリ性が強い場合は、
洗い流すことをおすすめします。
宿のご主人たちが日帰り入浴客で一番嘆いているのは、
入浴セットの持ち込みです。
これは“湯ガール”と呼ばれる若い女性たちです。
最近は日帰り温泉施設を巡る、この湯ガールが、
山奥のいで湯にまで出没しています。
彼女らは、マイシャンプーや マイボディーソープを持参して、
ところかまわず体を洗い出します。
ご存じの人も多いと思いますが、
昔ながらの湯治を目的とした浴場には、洗い場はありません。
浴場は、あくまでも“湯を浴(あ)む”ところであり、
体を洗うところではないからです。
洗い場がないということは、
そのための排水機能が施されていません。
「若い女の子が来ると、あとの掃除が大変なんだよ。
浴室が泡だらけで、排水口に長い髪の毛が詰まってしまう。
おまけにネットには『露天風呂がない』だの
『シャワーがない』だの『ボディーソープが置いてない』だの、
散々な悪口を書かれてしまう。たまったもんじゃない」
と、怒り心頭のご主人もいました。
まったくもってご主人の意見には同感ですが、
そんなとき私は、こう言葉を返します。
「これはブームですから必ず去ります。
ブームが去ったとき、
本当に温泉が好きな人たちがやって来ますよ」と……。
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