温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第60回
料理は地産地消が基本

私が温泉宿に求めるものは、
1に湯、2に人、3に歴史やロケーションなので、
料理に対してうるさい事を言ったことはありません。
ただし、あまりにもその土地とかけ離れた食材を使った
料理を出されると、げんなりとしてしまいます。

数年前、海辺の民宿に泊まった晩のこと。
エビやタイなどの海の幸に舌鼓を打っていたときのことです。
私が群馬から来たことを知った女将さんが、
こんなことを言いました。
「温泉が好きだから、ときどき群馬へは行くのよ。
でもね、あの紫色したマグロだけは、いただけないわ」

まさに痛いところを突かれました。
海なし県の悲しい性で、昔から群馬ではマグロの刺し身を
出すことが最大のもてなしだと勘違いしているのです。

旅に出たら、その土地のものを食べるのが基本です。
群馬県にも、美味しいものがたくさんあります。
いえ、旅は決して美味しいものを食べることが目的ではなく、
ふだん食せない地のものをいただくことに
意味があるのだと思います。

群馬県の西部に、
下仁田温泉「清流荘」
という一軒宿があります。
7000坪という広大な敷地には、
自家農園やヤマメ池、シカ園、キジ園、イノシシ牧場があり、
米以外はすべて自給自足を行っています。

「地産地消なんて言葉がない頃から、うちは敷地内産地直送だよ」
と先代の清水幸雄さんが、
畑仕事をしながら話してくれたことがありました。
2400坪を超えるの農地では、
随時20種類の野菜が無農薬で栽培されています。
名産の下仁田ネギやコンニャクをはじめ
「地元の食材を提供するのが本来のもてなしの姿」と創業以来、
自家製食材にこだわった料理を出しています。

宿の名物の「猪鹿雉(いのしかちょう)料理」は、
この地に伝わる祝事に欠かせないハレの膳です。
もちろん食材のイノシシ、シカ、キジは、
すべて敷地内で飼育されています。
その他、下仁田ネギのかき揚げ、コンニャクの刺し身、
コイのあらい、ヤマメの炭火焼きなど、
すべて自家製で手作りの山と里の料理が並びます。

「本来の温泉宿の姿、
日本人の心の中にある温泉のイメージを大切にしたい」
と言った2代目主人、
清水雅人さんの言葉がとても印象的でした。





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2012年6月23日(土)

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