温泉で元気・小暮淳

温泉ライターが取材で拾った
ほっこり心が温まる湯浴み話

第16回
ああ、幻のガラメキ温泉

その奇妙な温泉名を聞いたときから、
私は自分の目で確かめずにはいられませんでした。

世の中には“消えた温泉”という、
かつて旅館があった幻の温泉が存在します。
群馬県内にもいくつかありますが、
そのほとんどは、源泉の枯渇か、
ダム建設に伴い湖底に沈んで姿を消したもの
です。
だから、たとえ場所が判明したとしても、
現在は入浴することはできません。

ところが榛名山中にあった「ガラメキ温泉」は、
いまでも跡地に源泉が湧出しています。

昭和21(1946)年4月、敗戦の翌年のこと。
突然、「72時間以内に立ち退きなさい」と
ガラメキ温泉の3軒の旅館は、役場から連絡を受けました。
榛名山中にある旧日本陸軍の相馬ケ原演習場を米軍が接収し、
「射撃訓練に土地を使用する」という理由から
強制立ち退きを命じられたのでした。

平成11(1999)年9月、群馬県と榛東村は協議により
「温泉源泉台帳」より、ガラメキ温泉を抹消しました。
よって現在の地図には、
もうガラメキ温泉の名は記載されていません。

数年前の夏、私はカメラマンと連れ立って、
ガラメキ温泉を目指しました。
古い地図によれば、
場所は榛名山系鷹ノ巣山の山中に記されています。
近くを通る県道、高崎榛名吾妻線の路肩に車を止めて、
リュックを背負い、地図を頼りに山道へ入りました。
沢を何度も渡り、崖崩れにより土砂に埋まった道を登り、
約1時間の歩行の末に、幻の温泉に着くことができました。

旅館跡を忍ばせる石垣が、所々に残っています。
源泉は、近くの沢の端に埋まった
ヒューム管の中から湧いていました。
泉温、約30度。泉質は炭酸塩類泉。
やけどや皮膚病に効能があり、
「2〜4週間滞在して温泉に入れば、
きれいに治って毛やヒゲまで生えてきた」と、
当時を知る人たちは口を揃えて言います。
戦時中は、空襲でやけどを負った人たちが湯治に通って来たとも。

私は意を決して全裸になり、ヒューム管の中に身を沈めました。
体温より低い源泉は、夏といえども、かなり冷たい。
それでも足底からは、プクプクと
気泡とともに温泉が湧き出ている様が感じ取れました。

ガラメキの語源については判然としませんが、
かつて「我楽目嬉」と表記したことがあったと聞きます。
なんて素敵なネーミングなのでしょうか。


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2012年1月21日(土)

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