幸か不幸か、そういう人々の息をつくところとして台湾が選ばれたために、台湾をそういう「大陸反攻の拠点」にすることに反対な私たちは、台湾からはみ出して東京に亡命したり、香港に亡命したりしたが、私たちを追い出した国民政府の人たちもまた同じ宿命を辿らなければならないとしたら、残された台湾の人たちは一体どうしたらよいのであろうか。
将来、中国と台湾との間で何らかの妥協が成り立ち、共産主義とソリの合わない人たちでも棲息の余地があるようになれば別だが、ここ当分は台湾海峡を戦場にしないことが焦眉の急であった。そのためには、台湾の経済を発展させ、台湾に住む人々の所得水準を引き上げる必要があった。経済さえ安定すれば、たとえ国際政治から孤立しても、ちゃんと飯が食えていけるし、前途に立ち塞がる問題のほとんど八〇%を解決することができる。
たまたま私は高度成長期にさしかかる当初から、日本の経済の発展する過程をずっと観察してくる立場にあったし、のみならず、日本経済の今日の発展を早くに予想した数多くない人々の一人に数えられてきたので、台湾の経済の発展に対していくらかお手伝いができるだろうということについては少しばかり自信があった。
ちょうどこの時期は、日本の高度成長もいよいよ絶頂期にさしかかっていたので、どこの企業もコスト・インフレに悩まされていた。なかでも大企業の傘下にあった下請企業は、一方で大量注文を条件に価格の引き下げを要求され、他方で賃上げ、人手不足によるコストアップに突き上げられていたので、どこかに活路を見出す必要に迫られていた。
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