仕事する女は強い
お客の扱いも容易ではないが、働いてくれる従業員の扱いはそれよりももっとたいへんである。職人たちには流れ者の気質があるから、一つ所になかなか落ち着いていない。また応募してくる女子従業員の中には、ヒモになっていたヤーさんを避けてこっそり逃げ出してきた人もあり、ヤーさんが店まで押しかけてきて揉み合いになり、必死になった女が力一杯押したため、ヤーさんのほうがウインドーのガラスの中に倒れてガラスが割れて大怪我をしたこともあった。
そうした従業員たちの身の上相談に乗ったり、全店の従業員を連れて伊豆や鬼怒川まで慰安旅行に出かけたりするのも、すべて家内の仕事であった。
私と結婚したとき、お嬢さま育ちの家内は何一つできなかったので、「あなたが死んでしまったらどうしよう」と不安がることが多かったが、クリーニング店を四、五年もやると、人の使い方から税務署対策まで一とおり覚えたので、
「もうあなたは死んでも大丈夫よ」
と気の強いことを言うようになった。私は、物書きをはじめた頃、女性の職場進出には批判的で、
「育児や家事をやったうえに、外の仕事までやらされたら、労働過重になって早く年をとるから損だ」
という意見を持っていた。しかし、必要に迫られて働いたことのない妻を職場に出し、マネジメントをやってもらうと、個人的な資質ももちろんあるだろうが、仕事はきちんとこなすし、お金儲けの容易でないこともちゃんとわかってもらえるし、何よりも世間がわかってくるので、女が仕事をやるのも悪いことではないなあ、と次第に考えるようになってきた。
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