技術だけを見て
はじめて日本陶器の株を買ったばかりの頃、私はNHKに頼まれて名古屋に講演に行った。依頼を受けたとき、電話口で何かご希望があったら言ってください、と言われたので、私は日本陶器とトヨタ自動車の工場見学に行きたいが、会社に連絡していただけないでしょうか、ときいた。おやすいご用ですと言って、NHKの人が当日、車で私を二軒の会社に案内をしてくれた。
いまでも覚えているが、日本陶器では貴賓室に通されて、貴賓名簿にサインさせられた。
貴賓名簿をパラパラとめくっていると、会社の秘書室の人が「作家の方は滅多にお見えになりませんね。戦前に一度、吉川英治先生がお見えになられましたが・・・」と言った。
小説家の人はこういうところには見えないものだということを、このときはじめて知った。
なるほど名簿をめくっていると、来賓はほとんどが外国人である。外国人の中には何応欽将軍の名前もあった。文士は工場見学はやらないが、外国の人は軍人でも瀬戸物の工場見学に来るのかと、妙に感心したりした。
日本陶器では、三千人の女工さんを使ってコーヒー茶碗や洋食のディナーセットをつくっていた。当時、コーヒー茶碗は一個百円くらいで輸出されていた。ところが、トヨタ自動車に行くと、七千人の人を使っているが、私の見ている前で、一台百万円の自動車が二分間に一台の割合で、完成車として次から次へととび出してくる。それが羽が生えてとぶように売れていくのだと、私を案内してくれたトヨタ自動車の重役さんが説明していた。
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