「時代先取り」でトヨタ株を買ったが
経済評論家の予想は当たらない
小汀利得さんは経済評論家の中でも私が非常に好感を抱いた人であった。私心がなく、正義感が強く、不条理と思ったことには遠慮会釈なく猛然と噛みつく。
「小汀先生の投げる球はいつも直球ですね」
と、あるとき、私がひやかし半分に話しかけたら、
「だからよく打たれる」
と直ちに答えが返ってきた。私はますます小汀さんが好きになった。
しかし、景気の見通しとか、株の買い方ということになると、話はまた別である。小汀さんはいまの日本経済新聞がまだ中外経済と呼ばれていた時代に社長をつとめたくらいの人だから、もちろん、経済や株式投資についてはエキスパートである。ただし、エキスパートとは、経験を積んで過去のことをよく知っているという意味であって、未来のことについてよく知っているわけではない。
小汀さんの経済知識は全体を見渡したきわめて常識的なものであるから、株式投資に対しても、一流企業を中心として、利回り採算で判断をする。だから、私がオープン型投信の単独組入れ銘柄を狙うといったときも、いや、日本経済はこれからまだまだ伸びるから鉄鋼メーカーとか、造船メーカーの株を買ったらどうですかと、私にアドバイスをしたのであった。
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