意外な訪問者
そうしたある日、一人の青年が研究室にいる私のところへ電話をかけてきた。その青年は私の上司の名前をあげ、私と会って話をしたいと申し込んできた。指定された喫茶店に出かけて行くと、その人は混雑する客の入れかわり立ちかわりするなかで、自己紹介をした。
それによると、荘要伝と呼ぶその男は中央大学在学中に外交官試験に合格をし、最初は外務省に入ろうと思ったが、どうせ台湾出身では出世もできないにきまっているから、考えなおして大学を中退し、朝日新聞社に就職をした。終戦後、台湾へ帰ったら、この有様だから、政治家になるのを断念していまは台湾銀行に勤めているという。
「して、僕に何の用事ですか?」
と私はきいた。すると彼はさしてためらいもせずに二・二八事件後、行政長官公署から通緝令(逮捕令)の出ている廖文奎、廖文毅博士を上海までこっそり訪ねて行った話をはじめた。慶兄弟はアメリカの大学で博士号をもらった台湾南部の地主の出身で、二人ともアメリカ人の女性と結婚をしている。
アメリカで民主主義の空気を吸ってきた人たちだけに、戦後の台北では、なかなか人気の高い政客であった。この二人は二・二八事件の起る数日前に台湾を離れて上海に渡っており、事件とは直接の関係はなかったのだが、暴動を煽動した仕掛人として逮捕状を出されていたのである。
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