第930回
なぜかピンクの象の話に
池田潔を知っていますか。
むかし、慶応義塾の教授であった人です。
父は池田成彬。
池田成彬はもと三井財閥の大番頭で、
後に日本銀行総裁をつとめた人物。
だからといって私が経済の話をするわけではなく、
おしゃれの話。
剣豪列伝というのはよくありますが、
洒落者列伝をつくろうというなら、
この池田潔を忘れることは出来ません。
誰もがそうとは気づかないほどの洒落者であった。
つまり上品で、正統で、さりげないんですね。
明治以降の日本人で、
まず最初に指を折って良いくらいのダンディーであった、
と私は考えています。
そもそも池田潔の着こなしとは・・・
と語りはじめたいのですが、
私は一度もお目にかかったことがない。
写真でその姿を見、
著書でご意見を読みかじった位のものですから、
あまり大きいことは言えません。
けれどもその随筆を眺めるだけでも、
おしゃれ観に大きな影響があると思います。
たとえば『靴のかかと』、
これは池田潔の名随筆集です。
他に『第三の随筆』、『教師のらくがき』
『歩道のない路』などがあります。
『靴のかかと』は昭和27年、慶友社刊。
今はもうありませんが、
むかしは著者検印という習慣があった。
奥付に著者が印を捺す。
これで何部印刷された、
というのが確認できるわけです。
で、『靴のかかと』の検印を見ると、
淡いグレーのほたて貝が描かれて、
その上に池田の印がある。
ああ、しゃれているなあ、と思う。
もっとも貝のマークは
慶友社の印(しるし)なのでしょう。
なにか自分なりの印象的なマークを
用意しておくのも名案ではないか。
私なら小さな象とか。
なにしろ尚三(しょうぞう)という位ですから。
白いポロ・シャツの胸もとに、
小さな、ピンクの象をししゅうさせて、
着てみるのはどうかと考えています。
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