服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第676回
わが初恋のスポーツ・シャツ

そもそもおしゃれにめざめたのは、
何才位のことですか。
私の場合は13才頃のことだと思います。
自分だけのスポーツ・シャツが着たいと考えたのです。
私が生まれたのは四国、高松ですから、
その時代はまだ自分の身体に合う、
おしゃれなシャツなど売っていなかった。

そこで古い自転車に乗って、
何軒も生地屋さんをまわりました。
やっと自分なりに納得のゆく生地を見つけた。
とにかく最初の冒険ですから、
今でもはっきりと覚えています。
それはベージュとライト・ブラウンの
小さな格子柄のウール地でした。
おそらくは女性用のスカートにも
ふさわしい生地であったのかも知れません。
この生地と、それに合う貝ボタンを添えて、
知り合いの洋裁店で
男物のシャツを仕立ててもらったのです。

襟腰のない、いわゆるオープン・カラーで、
両脇にフラップ付きの胸ポケットがありました。
たったこのシャツを着ただけで、
ずいぶん大人になったような気がしたものです。

オープン・カラーであろうとなかろうと、
ウールのスポーツ・シャツは
もう一度見直して良いものでしょう。
ウールリッチの、大胆な格子柄のスポーツ・シャツは
昔から有名ですね。
でも、なにもチェックに限ったことではありません。
細かいミックス調の柄もあるでしょうし、
また無地で、色のきれいな
ウールのスポーツ・シャツだってあるでしょう。

ウールのシャツはなんといっても肌ざわりが良い。
それにシワになりにくい。
さらには生地がしっかりしている。
ということは、
襟の立て方や倒し方も自由自在なのです。
襟の後で、中央部分だけ立てて、
あとは襟先にかけて自然に倒す、
といった微調整も可能です。
これは一度、実際にやってみれば、
すぐに分るでしょう。

濃いグリーンの、薄手の
タートル・ネック・スェーターの上に組合わせて、
まるでスポーツ・ジャケットのように
羽織ってみることもできます。
ウールのシャツは大人のおしゃれのはじまりです。


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