服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第592回
自分だけの流行を創るために

今ではもう着なくなってしまった
サマー・スーツを持っていますか。
私は持っています。
たくさん持っています。
この間、久々にタンスの奥から取出して、
じっくり眺めました。
スーツとしてはまったく問題ありません。
なぜか体型もそれほど変ってはいない。
汚れているわけでも、破れているわけでもない。
要するに、流行遅れなんですね。

でも、流行遅れとは何か、
ともう一度考えてみたのです。
たとえば「流行はじめ」があったとします。
けれども美しくない流行はじめより、
美しい流行遅れのほうがいいや、と思ったのです。
つまり流行遅れを美しく着こなせば
良いではないか、と。

たとえばここに一着の流行遅れがあります。
もう20年以上も前の注文服。
身体にフィットして、襟も少し狭い。
色は紺、生地はモヘア、
両前の6つボタン型のスーツ。
たしかに流行はじめのスーツとは思えません。

でも、着てみよう、
美しく着ようと決心したのです。
もちろんスーツとして。
まず白いTシャツを一枚、新調しました。
もっともTシャツですから、
それほどの投資ではありません。
純白の、真新しいTシャツの上に、
流行遅れの紺のサマー・スーツを着る。
それほど悪くない。
良く洗って白く仕上げたスニーカーを履く。
うん、ますます悪くない。
さて、次に手持ちの、大判の、
麻のハンカチーフを取出した。
バンダナのように首に巻くわけですね。
白いTシャツに、白麻のハンカチ。
とても、良いじゃないかと、
今、自画自賛しているところなのです。

もちろん白麻のハンカチと限らず、
時と場合によっては
小さなシルクのスカーフでも良いでしょうし、
また本当にバンダナをあしらう方法もあるでしょう。

少し生意気な言い方かも知れませんが、
自分の流行は自分で創るものです。
他人が何をどう、流行だと考えるのは、自由。
同じように自分が今、本当に着たいと思うのが、
自分だけの流行ではないでしょうか。
さあ、自分だけの流行を創ってみよう。


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