| 第580回夏のネクタイを考える
 夏にふさわしいネクタイについて考えたことがありますか。
 少し極端な例をあげますと、
 むかし絽(ろ)や紗(しゃ)のネクタイが
 流行したことがあります。
 いや、今でも一部に愛好家がいるかも知れません。
 いかにも涼しげな生地で、
 色や柄についても
 涼しさを強調したものになっている。
 でも、絽のタイを締めたからといって、
 急に涼しくなるわけではありません。
 第一絽や紗は本来、盛夏用の和装地で、
 洋服にはふさわしくない。
 絽の着物は素晴らしい。
 でも、絽のタイは一人よがりの日本趣味でしょう。
 絽や紗のネクタイを締めるくらいなら、私はフラールのタイをおすすめします。
 フラールfoulard は
 多くネクタイに使われる生地のことです。
 たいていは「薄綾絹」と訳されます。
 文字通り、薄く軽く、綾織りにされた生地のこと。
 英語では“フラード”と呼びます。
 ただしもともとはフランス語の“フラール”が
 そのまま英語化されたものですから、
 フランス読みにしても間違いではないでしょう。
 20世紀のはじめ、最初はスカーフ用生地として
 インドで織られた。
 これがすぐにフランスに伝えられて、
 “フラード”となった。
 これは古いフランスの方言で
 「夏用のウール地」を意味する。
 “フーラ”が語源になったと考えられています。
 つまり最初は夏用のスカーフ地であり、
 やがて愛用ネクタイ地とされたのです。
 もちろんフラールのタイを結んだからといってすぐに涼しくなるわけではない。
 けれども「かつては夏用であった」
 という思いにひたれる効果はあるでしょう。
 少なくとも優れたネクタイ地として
 フラールがあることは覚えておいて良いでしょう。
 一方、21世紀の現在としては、コットン地のネクタイや、
 リネン地のネクタイを
 夏用と考える方法もあります。
 単にネクタイそのものを否定するよりは、
 もっと自由にネクタイの生地を考えることで、
 着こなしの幅を
 楽しみたいものではありませんか。
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