服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第382回
ルーム・シューズの物語

ふだん家でくつろぐ時、
何を履いていますか。
私はごく普通のスリッパです。
ところが世の中にはスリッパが嫌いな人もいます。
その場合にはルーム・シューズ、
あるいはソックス、あるいは素足・・・。
まあ、当の本人が納得しているのなら、
何を履いても履かなくても
それはそれで良ろしいのでしょう。

ところで外国の家庭では
いったいどうしているのか。
もちろん靴のままということも少なくありません。
でも、スリッパがないわけではない。
典型的な例をあげると、
“ベルベット・スリッパー”があります。
むかしの貴族階級の足もとは
たいていこのベルベット・スリッパーを履いていました。

たいていは黒いビロードのルーム・シューズのことです。
内側は赤のキルティング地などが多く、
甲の部分に自分の頭文字などを飾っておく。
たぶん写真などでごらんになったことがあるでしょう。
相当はき込んだフラノのパンツに
ベルベット・スリッパ―、
そして上には
“スモーキング・ジャケット”を羽織るというのが、
ひと昔前の上流階級の姿でした。
今はもう少なくなってしまったでしょうが。
スモーキング・ジャケットは
ダウンとタキシードを足して
2で割ったような室内着のことです。

もちろん古き良き時代に包まれていたほうが落着く、
というのであれば、
映画の一場面のような格好をするのも、
ひとつの方法かも知れません。

ベルベット・スリッパ―はさておき、
私としてはルーム・シューズにしようかな、
と考えはじめています。
まったく個人的な好みなのですが、
あっさりとした、飾りのない、
まっ赤なスエードのルーム・シューズがあったらなあ、
と思っています。
で、これに合わせて赤いウールのソックスを履く。
あとはもう古いフラノのパンツがあれば、
何も要りません。

なるべく足もとを温かくして、
すぐにヒーターを入れたりしないようにしよう、
と今、心に決めたところです。


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2003年10月19日(日)

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