服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第380回
ボタンの美学について

男の服のなかで
絶対にボタンを留めないものがあるのを知っていますか。
ボタンが付いていないのではない。
ボタンはあるのだけれど、留めない服。
それは燕尾服です。
クラシック・コンサートなどで
指揮者が着ている服、あれが燕尾服。
燕尾服はまるでダブル前のように、
左右2列にボタンが並んでいます。
でもこれはボタンが付いているだけで、
絶対に留めることがありません。

もともとは燕尾服の原型は
ボタンを留めて着たはずです。
けれども前を外して
チョッキを見せて着ることが定着して、
ボタンは形式的に残ったのでしょう。
まあ、人間でいえば尾底骨みたいなものかも知れません。

燕尾服は例外として、
たいていの男の服はボタンを留めて着るのが普通です。
スーツであろうと、ジャケットであろうと、
コートであろうと同じことです。
たとえばシングル前3つボタンの上着の場合、
上の2つのボタンを留めて着る。
場合によって、中の1つのボタンを留めて着る。
いずれにしても一番下のボタンは
外しておくのが常識です。

服を仕立てる側からすれば、
ボタンを留めることによって
最終的にシルエットが完成するのです。
前ボタンを外すのは、
少しシルエットを崩すことでもあるのです。
緊張に対するリラックス、
とでも言えば良いのでしょうか。

さて、ここからが本題。
上着の前ボタンは立っている時には掛け、
ソファーにゆったり腰かける時には外すのが原則なのです。
でも、今はたいていの人が椅子に座る時にも
ボタンを留めたままということが多い。
これはひとつには昔にくらべてシルエットが
ゆるやかになっていること。
もうひとつにはチョッキを着る習慣が
少なくなっているからでしょう。

服の着方も時代によって変化するもの。
絶対にこうである、と決めつけることはできません。
でも、本当は立っている時に掛け、
座る時には外すのが、男のボタンなのです。
つまり前ボタンの扱いひとつにも
美学があるのです。


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2003年10月17日(金)

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