服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第296回
ちょっとステキな暑気払い

暑気払いをやったことがありますか。
暑気払いとは暑さに負けないために、
薬を飲むことです。
むかしは香需散(こうじゅさん)という薬がありました。
まあ、漢方薬の一種ですね。
あるいは桃葉湯(とうようとう)や
びわ葉湯(ようとう)というのもありました。
桃の葉やびわの葉は薬になる、
ことに夏負けにはよく効くと信じられたのです。
以前、「毒消売」という商売ありましたが、
これも夏負けに効く薬を売ったものです。

けれどもこの薬を拡大解釈して、
梅酒などを飲むのも、暑気払い。
焼酎や泡盛を飲むのも、暑気払い。
私なんか毎日が暑気払いのようなものであります。
要するに、身心をしっかりとさせてくれる強い酒を飲むのも、
夏の健康法ということなのでしょう。

少し話は変りますが、
ロバート・キャパ(1913〜1954年)という
報道写真家がいました。
第二次世界大戦の末期、1944年
まったく偶然にキャパはヘミングウェイに再会する。
場所は戦時下のロンドン。
かつてキャパとヘミングウェイは親交があった。
というよりもキャパはなにかと
パパ(彼の仇名)に世話にもなった。

そこでキャパはヘミングウェイを
自分の宿に招いて歓迎しようとした。
けれども物質払底で、酒は貴重品。
キャパはやっとのことで
シャンパン1ダースとブランデー数本と、
桃6個を手に入れることに成功する。
キャパはこれに加えて大きな金魚鉢を買う。
で、この金魚鉢のなかに以上のすべてを注ぐのです。
つまり桃とブランデーとシャンパンのパンチが出来上る。
数人の客でこれを全部飲んだというのですから、強い。
明け方、キャパは金魚鉢の底に残った桃を食べて
眠りについたそうです。

そういえば今は桃の時期、
キャパ・カクテルをつくってみましょうか。
よく冷やしたシャンパンを1本に、
同じく冷やしたブランデー半分、
桃は1個という割合でしょう。
数人集っての暑気払いには
ちょうど良いのではないでしょうか。
果して写真が上手になったり、
文章が上手になるかは知りませんが。
夏負けにはきっと効くでしょう。


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2003年7月16日(水)

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