| 第233回俳句を詠んでみませんか(1)
 俳句上達法を知っていますか。それは実に簡単なことで、
 季寄せ、歳時記のたぐいを開いてみる。
 いろいろな句が並んでいますし、
 また、どんな季語があるかも分ります。
 なかにはいったい何が言いたいのか、
 さっぱり分らない句もあります。
 その一方で、必ずひとつやふたつ好きな句を発見するでしょう。
 最初はこれを真似るつもりでやってみれば良いのです。
 若葉して御目の雫ぬぐはばや(芭蕉) これは芭蕉が奈良に行き、唐招提寺、鑑真和尚を拝した時の句。鑑真は天平時代の高僧ですから、
 芭蕉の時代から眺めてもざっと1000年近い距離があります。
 けれどもその1000年をすっと超えて、
 「あなた様の涙をふいて差上げたいなあ」と言っているわけです。
 だいたい涙が出ていると思うのも、芭蕉の勝手な想像でしょう。
 一言でいえば超現実的な句です。
 けれども芭蕉がそこでいかに感動したか、ということは伝わってきます。
 ちょうど名人の手品を見るような鮮さがあります。
 季語は若葉(夏)で、
 御堂のなかの暗さとコントラストも活きています―
 といったふうに考えていると、
 なにかを見る時の観察力が違ってくるでしょう。
 私なども初夏の頃に奈良に行ってみたい。鑑真像を拝見してみたいと思う。
 これで旅の理由がひとつ出来るわけですから、
 これもひとつの効用でしょう。
 それはともかく好きな句を発見して、どうしてその句が好きなのかをじっくり考えるようにすると、
 絶対に俳句は上達します。
 でも、ここで問題なのは、
 あまり上達しすぎるのも困ったものです。
 趣味のはずが趣味でなくなってしまうから。
 趣味ではじめたゴルフで、
 突然先生になってしまうようなものです。
 芭蕉もこんなに上手にならず、適当にやっておけばもっと永生きしたと思います。
 これとは関係ないことですが、
 昭和期の俳人はたいてい永生きです。
 私は俳句に遊ぶことは、
 なによりの永生きの秘訣だと思っています。
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