第33回
あなたが選んだ総経理は失格です
2000年の秋に引越しを終えて年の暮れにさしかかったある日、
日本に戻っていた私のもとに
台湾小倉一号社員のリチャード譚(タン)から
長文の電子メールが届きました。
譚さんは若い頃日本に何年か留学したことがあり、
日本語の会話はほぼ問題ありませんでしたが、
文章の方は助詞の使い方にやや難があり、
また語彙にも限りがあったので、
理解するのになかなか骨が折れました。
それでも、行間から彼の思い詰めた様子がうかがえました。
手紙の内容は、総経理のミン徐(スー)に関することでした。
最初こそ彼の人脈を活かして
会社を動かすのに必要な人材を引っ張ってきたものの、
その後は、営業にもロクに出なくなり、
オフィスを引っ越しした時に総経理室を作らせてからは、
そこに篭りっきりで雑誌ばかり読んでいる、
たまにいないと思うと会社の金を使ってゴルフをし、
どうでもいい雑用は社員を呼びつけて押し付ける、
こんなことでは先が思いやられると、
社員が会社を辞めることを考え出した、というのです。
譚さんは、彼のリーダーとしての資質を端的に示す
次のような例を挙げました。
台湾ではボスや社長のことを老 (ラオバン)と呼びますが、
例えば皆集まって食事するとき、
老 は、皆に先に食べさせてから初めて箸をつけるものだ、
然るにミンは、
我先にあれが食べたいこれが食べたいと皿にがっつき、
まるで分別のつかない子どものようだ、と。
それまで譚さんなりに総経理を立てて来たのですが、
ついに我慢の限界を超えた様子が見て取れました。
オグラ社長にメールの内容を説明すると、
「(こんな時期に)社長室を作るヤツなんか
ダメに決まっとるじゃないか?
(そんなことも見分けられなかったのかオマエは!)」
と、あきれられてしまいました。
私は、自己嫌悪で重くなった気持ちを引きずりながら、
総経理更迭のための、台湾行きの飛行機に乗り込みました。
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