第30回
敵の相次ぐ新機能投入で規格見直し、開発費うなぎ登りに
2000年も4月になり、
オグラ技研が開発を委託した
シリウス社による現世代ICの技術解析がひと段落し、
次世代用に開発するICの規格を決めるべき時がきました。
営業サイドの意見も採り入れるため、
台湾小倉から担当者が参加して会議が開かれました。
台湾小倉の担当者は、
競合他社がセンサーモジュール単体の機能を着々と増やすとともに、
他のセンサーとの組み合わせで
さらに付加価値向上を図っている現状を説明し、
少なくともこのような動きに追いつけるものを開発してくれないと、
市場参入は難しいと訴えました。
シリウス社からは、
今回開発するICは彼らにとって未経験の部分が多いため、
アーキテクチャ(IC設計の考え方)は
現世代のものを踏襲してその上で新機能を追加したい、
ただ営業の意見をすべて採り入れるとなると
かなりハードルが高くなる、との説明がありました。
このICは、センサーに触れることによって生じた
アナログ(波形)の信号を、
パソコン本体とやりとりできるよう
デジタル(0,1)の信号に変換する
「ミックスドシグナル」という種類のものでしたが、
ユーザーにとって心地よい繊細な操作性を実現しようとして
センサーの感度を上げようとすればするほど、
他の部分からノイズ(雑音)を拾いやすくなり
誤動作につながってしまう、
という矛盾をバランスさせなければならない難題がありました。
シリウス社は、開発には少なくとも1年間かかり
その費用は1臆円という、
我々の予想を大きく上回る見積もりを提示してきましたが、
他の選択肢を考える余裕が当時の私にはありませんでした。
オグラ社長は、どうせなら
業界1、2を争うマーケットシェアを獲得できなければ
市場参入する意味がないと考えていました。
しかし、逆に言えば、
それほどの大きな販売数量を確保しないことには
このような高額の開発費を回収できるハズもないのでした。
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