至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第122回
極私的ギネスビールの聖地巡礼

恵比寿ガーデンプレイスから
広尾方面へ、どんどん歩いていくと
いつの間にか住宅街になります。
以前、たまたまその一角を通りかかったとき
何やらひときわ賑やかな……というか
大騒ぎな店を見つけました。
アイリッシュ・パブ『イニッシュモア』です。

時は2002年、日韓共同開催のサッカー・ワールドカップ。
グリーンのユニフォームを着た
おそらくアイルランド系外国人達が
漆黒のビールや褐色のビールを片手に
真っ赤な顔で
叫び、歌い、踊り、歓喜し、祈って、飲んでいる。

この時期は日本中が
かなり熱っぽかったのですけど、
それにしてもまぁ
魂がむきだしでそこにあるような光景に
しばし呆然と見とれてしまいました。
次の用事がなかったら、
きっと私は
歌いながら飛び込んでいたと思います。

ベッカムもロナウドもカーンも去った頃
遅刻の気分で、『イニッシュモア』に飛び込みました。
1階はスタンディング・バー(テーブルもありますが)、
スクリーンのある地階は、カウンターとテーブル席。

1階で、ギネスビールの樽詰め生を
1パイント(570ml)頼みました。
カウンターでは
先客の外国人が、ひとり静かにギネスを飲みながら
サッカーのビデオを観ています。
「夏草や 兵どもが 夢の跡」
そんなことを考えながら
ギネスは、待つ時間が楽しい。

少し経って、手にしたグラスには
美しいシャムロック=三つ葉の紋章(前回参照)。
ゆっくりと唇を近づければ
ほわほわの泡のなめらかな感触、
その下から
香ばしく、ほろ苦く、
すぅっとまろやかな黒ビールが流れます。
……ああ、間違ってた。
何をどう間違ってたのかわからないけど
とにかく、謝りたくなってしまいました。

私が樽詰めギネスのおいしさに開眼したのは
この瞬間、この場所です。
いってみれば聖地でしょうか。
以来、
正しいギネスビールと
フィッシュ・アンド・チップス、
冬にはギネス・シチューパイを食べるために
ときどき巡礼しています。


■Inishmore (イニッシュモア)
東京都渋谷区恵比寿3-14-7 AYAビル1F・B1F 
TEL 03-5791-3824 URL http://www.inishmore.jp/


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2004年6月8日(火)

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