至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第84回
歩き始めた、街のフランス料理店

桜は咲き始めたというのに、夜は冷たい強風。
しかも向かい風の中、
背中を丸め、薄いコートを翻し
中央線・西荻窪の駅から黙々と歩くこと、約15分。
フランス料理店『クーリ・ルージュ』のドアを開けると
ギャルソンと、そして厨房からも
「いらっしゃいませ」
という声が聞こえて、ほっとします。
「いい店はドアを開けた瞬間にわかる」
といわれますが
その期待感は、アミューズで確信に変わりました。

この日はまず
パイとオリーブが供され、食前酒。
その後、現れたアミューズが
「カリフラワーのムースとトビウオの卵、
軽くスモークしたホタルイカ、ウニ、コンソメのジュレ」。
ホタルイカは甘みと苦味を残しつつ、燻の香りが香ばしく
それがカリフラワーのなめらかなムースや
爽やかなジュレとよく合うのです。

コースは3980円から3タイプあり、
私が食べたプリフィクスタイプは
アミューズ、前菜、メイン、デザート、コーヒーで4500円。
ちなみに前菜は、シェフのスペシャリテである
「ブータンノワール ペイバスク風」
(普通は豚の肉と血を使った腸詰めですが、
ここではその中身だけをパイに載せ、
ゆで卵、カシューナッツや胡桃を添えたもの)、
メインは「牛頬肉の赤ワイン煮込み」を選びました。

おもしろいのは、バターが2種類あることです。
国産無塩バターと、
フランス南西部のエシレ村で作られる発酵バター
「エシレバター」(AOC認定)。
前者は無料。高級店でよく見られる後者は、
ここでは400円と有料ですが
でも、余ったら持ち帰り用に包んでくれます。
まろやかでスッと溶ける軽さの
このバターで食べれば、
シェフの焼いたゴマパンやミルクパンが進む、進む。

『クーリ・ルージュ』は昨年7月にオープンしたばかり。
オーナーでもある石川資弘シェフは
すべてが全力投球という感じで、気持ちいい。

彼は野菜も「国産にこだわりたい、
できれば地元(栃木県宇都宮市)で作ったものを」と
在来種はもちろん、フランスの野菜も栽培すべく
3年半修業を積んだフランスから
野菜の種とともに帰国しました。
栽培担当は、おばあちゃんとその近所の人たちです。
しかし残念ながら、一部は収穫できたものの
肝心の根セロリやちりめんキャベツが失敗。
今年こそは、と
みんな再び挑戦してくれるのだとか。

また豚肉は、やはり宇都宮で食べたお肉に惚れ込んで
「東京の人には売らない」
と言い張っていたお肉屋さんに3日通って交渉し、
分けてもらえることになったのだそうです。

仲間を増やして、ある意味巻き込んで(?)
新しいレストランが一歩一歩、動き始めています。


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2004年4月15日(木)

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