至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第34回
イタリアで一つ星を獲った日本人

『イタリアに行ってコックになる』で取材した
堀江純一郎さんと久々に会い
うれしいニュースを訊きました。

彼がシェフを務めている
イタリアのリストランテ『ピステルナ』が
「ミシュラン イタリア2004」で一つ星を獲ったのです。
正直、驚きました。
彼はオーナーではありませんが
引き継ぎでなく、新規オープンのシェフとしては
日本人では初めてです。
しかも、オープンしてわずか1年5ヶ月というスピードは
快挙と言っても過言ではありません。

イタリアで、新しい潮流が生まれている。
そんな予感がムクムクと膨らみます。
そもそもイタリアにはこんなに日本人コックがいるというのに
なぜ、星を獲った日本人シェフがいないのか。
いや、それ以前に
シェフ同然の役割を担う“実質的なシェフ”はいても
名実ともに認められた正式なシェフが
こんなにも少なかったのか。
それはヴィザ・滞在許可証など法律上の
問題もありましたが、
日本人コックたち自身の
修業スタンスが理由でもありました。

彼らの多くが、イタリアでの修業期間は
数年と決めていて
事実、大多数が数年で帰国します。
要は彼らにとってイタリアは
「日本で店を開くための通過点」であり、
そこでシェフになろうとまで思う
絶対数が少なかったのです。

それが、私が取材をした2002年頃には
「イタリアで勝負したい」あるいは
「星を獲って、名を挙げてから日本に帰りたい」
という日本人の声を聞くようになりました。
イタリアで修業したというだけでは
もはや日本では珍しくなくなったという
事情も一因でしょう。

ともかくそこまでやるには、
一朝一夕というわけにはいきません。
まず、イタリアでシェフになるには
最低、就学ビザでなく就労ビザが必要ですし
労働許可証も取得しなければなりません。
それには店のオーナーの協力が不可欠ですから、
大勢いるコックの中でも
「正式な給料を払ってでも、店にとって必要な人材」と
認めてもらわなければならない。
認めてもらうには、技術だけでなく
オーナーやシェフ、スタッフとのコミュニケーションや
店の料理、地元の伝統を
しっかりと自分のものにする時間が必要です。
それは“通過点”というには
長すぎる時間かもしれません。

しかし、そうしたいという日本人コックが
増えてきたのです。
堀江シェフもそのひとりでした。
時間をかけてじっくりと
「体に染みこませてきた」ものが今、
自分の揺るぎない、太い幹になっている。
そう、彼は確信しています。


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2004年2月5日(木)

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