至福の一皿を求めて おいしさの裏側にある話

第33回
マンマになった『ナディア』

再開しました、というお知らせがありました。
鎌倉・長谷にある『ナディア』は
女性シェフ、原優子さんの店です。

世田谷区にあるお店を経て
ついにオーナーシェフとして
由比ヶ浜に小さな小さなお店を構えたのが数年前。
それが、いつも人がいっぱいの人気ぶりにも関わらず
突然、結婚・出産のため一時閉店。
昨年マンマとなった彼女は
新『ナディア』を、もとの店からすぐの場所にある
長谷にオープンしたのです。

彼女には、イタリアでの修業経験がありません。
イタリアを旅して食べ歩き、舌にインプットした記憶で
自分の料理を作っています。
これが、とてもおいしい。

東京でシェフをしていたときから
自家製のフォカッチャもパーネも、手打ちパスタも
たったひとりでよくここまでできるなと
あきれるくらい、たくさん作っていました。
野菜も肉も、全国から選りすぐった
おいしくて安全なものにこだわっていて
それらをじつに気前よく使う。
由比ヶ浜に引っ越してからは
地元の食材に目覚め、
「野菜もそうだけど、とくに魚がおいしい」と
メニュー構成は魚介中心に替わりました。

そして現在、マンマとなった彼女の料理がどう変わったのか。
ハガキを手に、新しい『ナディア』を訪ねたのです。
はたして、築80年の日本家屋を改装した
情緒のあるロケーションを得て
原シェフの皿はますますパワフルになっていました。
手打ちパスタからドルチェまで、
手をかけた丁寧な仕事ぶりは相変わらずで
メニューには地元の魚介に加え、肉類が大幅に復活。
ちなみにコースは2皿2600円、3皿3600円です。

この日は「ホロホロ鳥白レバーのソテー ハチミツのソース」や
旦那さんの故郷の猟師が撃ったという、やわらかな
「鹿ロースのロースト プルーンのソース」、
肉のような濃厚さの「地アンコウのリヴォルノ風」が印象的。
とくに私はいつも、魅力的な前菜で死ぬほど迷います。

なにより、客席からチラリと見える
厨房に立つ彼女が実に楽しそう。
にこやかに、真剣に、でも力み過ぎずに
料理を作っている姿がとても気持ちいいのです。

そもそも、妊娠しても店を続けるつもりだったのが
中毒症の症状が出てやむなく閉店。
出産直後にはもう「料理を作りたい」と
強く思ったのだそうです。
そうしたら、かつての常連さんが
「すごい古い家」があるから店を再開しないかと言ってくれた。
また別のお客さんは会社を辞めて、
今、『ナディア』でカメリエーレとして働いてくれている。
……という展開に。

彼女は人に恵まれているのかもしれません。
けれどそれは、彼女自身ががんばってきた結果です。

私は彼女の料理をいただくと、いつも元気になる。
またあの料理を食べたい……そういう
何人ものお客さんたちが待ち望んで
一緒に店を動かし、誕生した、
幸せなリストランテだという気がします。


■Nadia(ナディア)
神奈川県鎌倉市長谷1-14-26


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2004年2月4日(水)

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