■QさんからのA(答え)
違う作家のかいた作品を見比べるのは読者の仕事で
私の仕事ではありません。
平岩弓枝さんが西遊記を書いていることは
あなたに言われてはじめて知りました。
私の西遊記はもう50年近く前に書いたものでありまして、
気になるのは
50年前に書いたものがいまでも通用するかということで、
またそれを再版する出版社があるということは
たぶん読む人が結構いるんじゃないかと思っております。
その本を書いた時にテレビ局の人から話があって、
ドラマでやるけどいいかと聞かれて、いいですよと答えたら、
それっきり連絡がなくて気がついたら放送されていました。
私の作品からたくさんヒントを得たときいていますから、
もし私が気が小さい人なら訴訟をすることもできたと思います。
でも争うことにも興味がないので、そのまま放置しました。
私が西遊記を書く時に考えたことは、
原作者は勧善懲悪をベースに小説を展開していますが、
いまの人は勧善懲悪なんか信じないでしょうね。
司馬遷の本の中にも、
「善いことをしたら報いられて、
悪いことをしたらえらい目に遭わされる
という仏さんの教えがあるけど、
私が歴史を見ている限りでは悪い奴ほどよく栄えています」
と書いてあります。
いまの人はむしろそういう考え方をするんじゃないかと思います。
ですから前編を通じて勧善懲悪にならないように意識しました。
また、原典を読んでいて、
坊さんになりたてのシスターボーイみたいな三蔵法師に
海千山千の化け物たちがいうことを聞くわけがないと感じました。
ですから私の小説の中ではいまの会社と同じように
下の者が集まるとみんなで社長の悪口を言うというのを
化け物たちにもやらせました。
おかげで辛うじて今日の人たちにも
読んでもらえているんじゃないでしょうか。
そんなわけで西遊記がくりかえし皆に興味を持たれているとすれば、
原典の西遊記を読んだ人が少いことと関係があると思います。
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