第212回
■atsushi88さんからのQ(質問):中国経済の今後

邱 永漢様

お世話になっております、
邱先生の本を横に毎日楽しみにしています。

さて今回は、中国経済の今後について質問できればと存じます。

現在中国は最も急速に経済発展をしております。
しかし私は現在の中国の経済発展が、
「安い労働力」が基盤なのではないかと懸念を持っております。

日本は「安い労働力」で経済発展をし、
その国際的な競争要因が消えた後、「国家的に高い教育水準」や
「物作りにおける職人精神やサービス精神」で
高い【付加価値】を創出しました。
日本の場合、その点が最大のブレイクスルーになりました。

そこで、中国で「安い労働力」の次に
国際的な競争要因になる要素は【何】だと、
邱先生はお考えでしょうか?

中国の現状と、そして中国の方々の可能性を
最も良く知る邱先生に、是非教えて頂きたいです。
是非御願いします!


■QさんからのA(答え)

中国の安い労働力が経済発展の
きっかけになっているというのはその通りだと思います。
おなじように、日本も安い労働力から始まって、
国際的な競争力がなくなってから
国家的に高い水準や職人の精神などが
新しい付加価値を作り出したということではございません。
それ以前からあるんです。

戦争が終わった時の日本の教育水準は
世界的レベルのものでした。
そして日本人のサービス精神は
江戸時代にも安土桃山時代にもあったものだと思います。
そういうものを備えた日本人が戦争に負けて、
為替で言うと安い円という状況のもとから
発展が始まったと考えていいと思います。
そういった意味では中国も
安い労働力だけが魅力じゃないんです。
中国よりもっと安い労働力は世界中にいくらでもあります。
いま中国に世界中のお金が集まっているのは、
中国が日本に負けないだけの
教育水準と労働意欲とを持った
良質の労働力を持っているからと
お考えになったほうがよろしいと思います。

日本の場合はそこから始まって
年々付加価値がふえて金が儲かるようになったので
どんどん賃金を上げていきました。
そのためにあっという間に
世界的な高い水準になってしまったのですが、
中国の場合は13億の人々が後ろに控えており、
8億ぐらいの農民がおりますので、
今後もしばらくは安い労働力を供給してくれるでしょう。

現に沿海地域の工業地帯で働いている人たちは
ほとんどが内陸の農村から出稼ぎに来ています。
上海や深に行きますと、大きな工場の半分は宿舎で、
そこで何千人何万人という人が寝泊りして、
3年か4年働いて、お金が貯まったら故郷に帰って、
また次の人と入れ替わるということが起っています。
入れ替わりをする、そういう人たちがいなかったら、
恐らくあっという間に賃金が高くなってしまうでしょう。
でも入れ替わる人がたくさん後ろに控えておりますので、
当分の間安い賃金をベースにした工業化は進むと
お考え頂いたらよろしいと思います。


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