第80回
■岸本さんからのQ(質問)

邱 永漢様

先日直筆サイン入りのプレゼントを頂いた岸本という者です。
その節は、ありがとうございました。
我が家の家宝にしたいと思います。

ところで、
「はいはいQさん」で質問するのとは
趣旨が異なる内容についてです。
文学における名声と、実業家としての成功を得られていますが、
精神的な心の拠り所は何なのでしょうか。
いや、こういうありきたりな表現でしか
説明できないのが悔しいのですが、
具体的に、河合隼雄との対談、
あるいは橘隆が「宇宙からの帰還」で、
宇宙飛行士にインタビューしたような形式で、
先生の精神世界を知りたいのです。
ホームページの「お知恵拝借!」でも先生について、
戸田敦也さんが語る形式になっていますが、
社会的成功だけに目を向けるのではなく、心の内側を知りたい。
こうした内容は、ご自身で述べられるのではなく、
第三者によって表現される方が
客観的でおもしろい(失礼)と思います。
先生の対談形式の文章は、何度か拝見したことがありますが、
どうしても社会的な成功に目がいってしまい、
人間のもっと深い部分に手が届いていない気がします。

こうしたことは、時間の無駄で、
ご自身には全く興味が持てないことでしょうが、
例えば偉大な芸術家の作品を愛するファンが、
芸術家そのものを理解したいと願う気持ちと同じです。

このメールは先生に読んで頂くより、
側近の方に読んで頂いて実現してもらえれば、と切望します。


■QさんからのA(答え)

私の対談を色々とご覧になっていて、
私の社会的成功のところだけが
目に付くとおっしゃっておられますけど、
私は自分が成功者だなんて思ったことはいっぺんもありません。
たぶん勘違いじゃないですか?

私には「失敗の中にノウハウあり」という本もございまして、
これは週刊朝日に30回に渡って、
私がそんな題をつける訳も無いのですけれども、
新聞社の方で付けて、「金儲けの神様が儲けそこなった話」
と題して掲載したことがあります。
失敗した話を読み切りで連載で30回も書いたくらいですから、
少なくとも30回は失敗しているということであって、
その他に割愛したものもありますので、
数えきれないくらい失敗の方が多いんじゃないかと思います。

私自身が成功したように見えるかもしれませんけども、
私自身は失敗の繰り返しと思っております。
もし、ひとつの事が成功して、
同じ事をずっと続けて行けばあまり失敗がありませんから、
そのままの形で成功者の仲間入れができます。
私はひとつの事をやって成功しても失敗してもすぐ飽きますので、
もういっぺんまた初めからやり直すことになりますから
失敗することが多いんですね。
でも、失敗した話も、仕事する上では役に立つと思いますから、
もっと深い部分をなどとおっしゃらないで下さい。


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