死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第22回
お金は、にぎやかで楽しいところが好き

世の中の人びとを観察していると、
悲観的な人と楽観的な人がいることがわかります。
同じひとつの出来事に遭遇しても、
前者は、もうこれでダメだ、
きっともっと悪いことが起こるに違いないと、
つぎつぎと悪いほうに連想を働かせます。

それに対して後者は、
いやこれくらいなら何でもない、何とかなるさ、
努力さえすれば自然と道は開けてくるという具合に考えます。

悲観論者は何ごとに対しても
いつも暗いほうへ考えをめぐらし、
楽観論者はその反対に、
何があっても明るいほうへと思いをめぐらすものです。

明るいほうへ思いをめぐらすといっても、
ただやたらと明るいだけでは困りますが、
どちらかというと、
世の中をいつも暗いほうへばかり考えていると、
考えることすべてが袋小路にはいってしまい、
自分で自分を身動きのとれない状態に
追い込んでしまいかねません。

そのうえやっかいなことに、
これは周囲にも影響します。
ネクラな人と一緒にいると、
こちらまで口を利くのが重くなります。
いい話や儲け話があっても、話すのがつい億劫になるものです。

反対に、ネアカな人と一緒にいると、
いい話、儲かる話は自分の胸のうちにおさめておこうと思っても、
つい喋ってしまいます。

してみると、楽観的な明るい人というのは、
お金のほうから寄ってくるということが言えるかもしれません。

いつも活気があってにぎやかに話をしている人には、
それだけいろんな情報がはいってくるから、
儲け話だって集まってきます。

お金も人も同じで、
にぎやかで楽しいところに集まってきます。
環境は人格形成の大きな要素のひとつですから、
生まれ育った環境はたいせつなものです。
悲観的な性格が養われる環境で育ったならば、
自然に悲観的な物の考え方をするようになります。

心配のほうが先に立ちますから、
お金を貯めても心配ばかりしています。

人にだまされやしないか、
お金をなくすような目に合わないか、
それを考えるたびに消極的になってしまうのです。

たとえば、私のところに、
財産の運用方法についてたずねて来た人の中には、
私が、インフレにそなえて土地を買うか、
家を建てて人に貸したらどうですかとアドバイスしても、
心配性の人は
「土地を買うとき、不動産屋にだまされないか、
家を建てるとき建築会社にごまかされないか」
といった心配ばかりします。

家が建つと今度は、入居者がいるだろうかと心配になる。
入居者があると家賃を滞納しないだろうかと、
また新しい心配がふえます。
そういう人のところへは、
福の神だって寄りつかないようになります。





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2013年4月23日(火)

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