死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第23回
組織の中には悲観的な人も必要

若い人についても同じことが言えます。
学生を見ていて思うのですが、
ほんとうにのんびりした学生がいるかと思えば、
その反対に、つねに悲観的にものごとを考え、
いつも被害者意識にさいなまれている人がいます。

そんな学生はたいてい、
同級生にもいじめられ、
就職をするにしても自分は差別待遇されているなどと
早合点しています。
「そんな考え方はやめるべきだ。
もっと前向きに考え、行動したらどうだ」
と私は言うのですが、あまり受け入れようとはしない。

ひょっとすると雪深い地方の出身で、
冬のあいだは家の中から出られなかったのでは、
と思いたくなるほどです。

反対に、のんびりした学生だと、
渥美半島の暖かいところで育ったのでは
と思わせるものがあります。

この2つの性格のうち、どちらがいいかというと、
会社で社員として採用する場合も、
お嫁に行く対象として見る場合でも、
やはりおおらかで楽観的な性格がいいと思います。
話をしていても、会話ははずむし、
つき合いやすいという感じがあります。
それに、ものごとを頼むときも、頼みやすい。

悲観的な人と違って、仕事をやる前から
「これはダメだ」と決めつけることはありません。
強気の人は、つき合っていても気持ちのよいものです。

ただ、悲観的で弱気な性格の人にも、
良いところはあります。
たとえば、ものごとを冷静に判断するという面を持っています。
世の中、そんなに簡単に考えてはいけない。
もっと慎重に対処しないと失敗してしまう。

そう考えるために消極的になってしまうわけですが、
何かにつけ積極的に行動できる楽観的な人に比べると、
慎重な分だけ失敗が少ないといえます。

その意味では、会社の中でひとつの仕事をすすめる場合、
全員が楽観的な人ばかりだとすこし問題があり、
その楽観的なムードをコントロールする意味でも、
ある程度用心深い、慎重派タイプの人が必要となります。

比率的には会社の中60パーセントも暗い人がいると
雰囲気が低迷してしまいますから、
30パーセントくらいが適切ではないでしょうか。
その30パーセントの人びとが
「そうは問屋が卸さないぞ」と言ってくれるのは、
悪いことではありません。





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2013年4月24日(水)

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