死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第90回
借金の重石をつけて十年間

私は相続税対策は思い立ってから、
自分の考えた形におさまるまでに、
大体、十年間はかかると見ている。
まず財産に借金をつける。
借金になれていない人は、借金が多くなりすぎて
返せなくなるのではないかと不安になる。
しかし、それは間違いで、借金は返さなくともいいのである。
というより借金を返してはいけないのである。
借金をつけたまま相続するのが上手な相続であって、
そのための借金であることを忘れてはいけない。

そう言われても、気の小さい人は、
金利が払えなくなるのではないかとまた心配になる。
最近のように不動産投資の利回りが
銀行金利にも及ばなくなってからの借金にはたしかにそういう不安が伴う。
しかし、金利に支払う金額は相続税にとられる金額に比べれば遥かに小さい。
不動産投資の利回りが銀行金利に比べて低いことは
すべての新規投資に共通の悩みであるから、
もしそれができないとすれば、新規投資もすべてお預けだということになる。

短期的には採算に合わなくとも、
不足分はマイナス勘定として所得の中からさしひかれ、節税効果があるから、
収支のバランスを考えながら、ギリギリの水準まで借金をふやす必要がある。
以上のように、すでにできあがってしまった資金に対しては
借金のほかにこれといった特効薬はないが、
このことは会社の株の時価を
低く評価してもらおうとする場合にもあてはまる。

会社の所有する財産に対して借金の比率をふやせば、
相対的に評価は下がる。
また積立金や未処分利益を減らせばその分、評価も下がる。

しかし、一番問題なのは被相続人の持株だから、
持株の大半を家族会社の所有に移すとか、
その家族会社を相続人たちで所有するとか、
会社の利益を分散するために、
新しくつくった会社に利益を移すといった工夫をすればよい。

持株を生前に贈与するような小細工をするよりも、
社長の資産に対して借金の比重をうんと多くするほうが、
ずっと効率的である。

したがって自分の持ち株や財産を遺族にそっくり渡そうと考えるよりも、
財産に借金という重石をつけて容易にとび立てないようにし、
それとは別に家族の財産づくりに積極的に協力する形のほうが遥かにすっきりする。
たとえば、子供が大株主になった新しい会社をつくる。
自分の持株はほんの形ばかりにし、できれば自分は第一線に立たない。
もし自分が役員に名を連ねるとすれば、
それは銀行から借金をする時のためだけである。
本当は役員に名を連ねなくとも、個人保証をするとか、
自分が代表をしている会社が新会社の保証をすれば事足りる。
あとは新会社が収入源を確保したり、
資産を持てるように工夫すればよい。

人間、はたして死んだあとの心配までするような
念の入った気配りが必要なのか、
これは人によって異論のあるところであろう。
しかし、心残りがないように死のうと思えば、
生きているうちに死んだあとの布石もちゃんとしておく必要がある。
それも付け焼刃では間に合わないから、
少なくとも十年の歳月をかける必要がある。
長い時問をかけて計画し、借金をつくることは、
よほどの決心がないとやさしそうに見えてなかなかできないものである。





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2015年6月17日(水)

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