死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第67回
予防医学と予防税金学

このことは、ちょうど無我夢中になって働いていても、
自分の財政状態がどうなっているか、
全然、気にしない人と気にする人との違いに似ている。

死んだあとのことは、どうせ誰も知ってはいない。
相続税がかかろうと、かかるまいと、
自分の関知しないことである。
しかし、最近のように地価が上がり、
三十坪の土地でも都心部の大通りにあったりすると、
坪一億円もして、死んだ途端に莫大な相続税を納めさせられる。

また事業をやっていて、
社長の持株が会社の資本金の70%を占めていたりすると、
社長が死んだ途端に何十億円という相続税を持っていかれる。
上場企業なら、株を関連金融機関や
関連企業に肩代わりしてもらえばよいが、
中小企業では売ろうにも売れないし、
うっかり売ってしまったのでは会社の経営権まで
人に渡ってしまうことになる。
そういうことがわかっていても、
愚図愚図しているうちに時間がたって、
死んでしまう人がある。

私は病気に対して、「予防医学」があるように、
税金に対しても「予防税金学」というものがあって
よいはずだと思っている。
そこで、「もし自分が死んだら、相続税はどのくらいになるか、
試算してみて下さい」と
仲間の公認会計士の先生に依頼したことがあった。

「たいていの人は、そこまではやらないわね」
と娘からもからかわれてしまったが、
私が思い切ってそういう試算をしてもらったのは、
自分の財産状態のどこに問題があるかを知っておけば、
次に新しい投資をしたり、
財産を動かしたりする時に、
これ以上欠点を助長しないですむし、
やっているうちに税金対策もしぜんにできあがって行くと
考えたからである。
とくに、生前贈与などちょこまかとして
小細工をしても効果は知れている。
姑息な手段にたよらずに、
相続税対策のための体質改善をしようと思えば、
恐らく十年くらいの歳月を必要とするであろう。

それと同じように自分の身体の欠陥を知っておけば、
どこまでもつものか、
またもたせるためにはどうすればよいのか、
がしぜんに身につくようになる。
だからといって、いつまでももたせて、
友人や兄弟の誰よりも長生きをしよう、
などと大それた気持ちは私にはまったくない。

ある時、人間ドックで心電図をとったところ、
「心臓に欠陥がありますね」と宜言された。
娘が心配をして、東京女子医大の心臓病の先生に
診察の予約をとってくれた。
行ってみると、学部は違うが、年齢も私と同じで、
ちょうど同じ頃に東大で勉強をした先生であることがわかった。
私の症状を見て、
「わかりやすくいえば、
電気製品の電線が三本あるうち一本切れているようなものです。
長生きするためには、あとの二本が切れないように、
大事に使うことですね」と先生はいった。

「ちょっと待って下さい」と私は途中から遮った。
「私はあまり長く生きたいとは思っていません。
太く短く、というほどではなくとも、
力一ぱい生きて
適当なところでくたばればいいと思っているのです」
「わかりました。ではそのようにしてさしあげましょう」
と先生はすぐに応じたが、
その即答の妙に私も思わず笑い出した。
お医者さんにも好意のもてる人、信頼のおける人と、
必ずしもそうでない人があるものである。





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2015年4月24日(金)

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