第43回
食こそ最大の旅の楽しみ
第四に、行く先々で泊るホテルも変わるが、
食べ物が変わることである。
年をとっても、外国へ行って
セクシャルなアバンチュールに
情熱を燃やす人は必ずしも珍しくない。
それが若さを保つ秘訣であると考えている人もあろう。
しかし、「もう食べる楽しみくらいしか残っていませんよ」
と口に出していう人も多い。
食べることに対する好みが固定されてしまって、
日本食以外は受けつけないという人もある。
ある時、一緒に台湾旅行に行った人と、
有名な料理屋で食事をしたところ、
「私は中華料理はダメなんです」といって、
ふところからおもむろにお茶漬け海苔のパックを取り出し、
お湯を持って来させて白いご飯にかけて食べた人があった。
その人はあるハンバーガー・メーカーの工場長だったので、
「よく工場長がつとまるなあ」
「こんな工場長じゃ製品はきっとまずいだろうなあ」
と心ひそかに思ったことがある。
そういう珍しい例外はあるけれども、
日本の国が豊かになるにつれて、
グルメ噌好は日本人の間に拡がり、
海外旅行をする場合も、
食べることを楽しみのーつとして数える人が多くなった。
タカが食べ物のことと言うなかれ。
食べることに熱心でない人は
やがてこの世にお別れを告げる時の近い人である。
昔から「腹八分に医者いらず」と言うけれども、
食事のテーブルを囲んでいる時に、
食欲旺盛で年齢にかかわらず、猛烈に食べる人は、
胃袋が丈夫にできているせいもあろうが、
割合に長生きする。
反対に食が細くて、「もう食べられない」
「どうもあんまり食欲がなくて」と断わりをいう人は、
間もなくこの世から姿を消してしまう。
また、食べ物の選り好みをする人よりも、
食が偏らず、何でも食べる人のほうが長生きをする。
バラエティに富んだ食べ方をするほうが栄養が偏らず、
身体に好影響をあたえるからだろうか。
したがって美食家は大食漢でもあると昔からいわれているが、
食欲がなければ、
そもそも食べることにそんなに固執するわけもない。
もっとも海外に出かけたら、
いつでもどこででも美味しいご馳走にありつけるとは限らない。
広い世界には、料理の美味しいところよりも、
まずいところのほうがずっと多い。
アングロ・サクソンは大体、食べることに不熱心で、
歴史上、世界を支配するだけの
富に恵まれた時代があるにもかかわらず、
料理だけは未発達のまま今日に至っている。
だからイギリスに行けば、今でも料理はまずいし、
かつてイギリス人が支配してきた地域は、
香港とシンガポールを除いて
(多分、これらの地域はイギリス人の文化圏というよりは、
中国人の文化圏だったからであろう)、インドでも、
スリランカでも、アフリカでも、すべてまずい地域に属する。
アメリカやオーストラリアも残念ながらその例外ではない。
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