死ぬまで現役

老人を”初体験”する為の心構え




第39回
働き盛りの旅行スケジュール

ついこの間、台湾の秘書を連れて香港に行ったら、
妙な運動靴をはいていたので、
「どうしたんだね?」ときいてはじめて事の真相を知った。
「あなたとの海外旅行は、歩くのが大へん」と、
かねて女房からもいわれていたが、
まさか年の若い秘書たちまでがそうだとは思わなかった。

そういうわけで講演のない旅先では、
もっぱら歩くことにしている。
知らない街に行ったら、電車に乗って終点まで行き、
また折りかえしてくるのが
最も手っとり早い方法だといわれているが
私は電車道を歩けるだけ歩く。裏通りももちろん歩く。
治安の悪いところだと、一人では心配なので、
二人か、それ以上で歩く。

それを新しい都市へ行くたびにくりかえすので、
いつの間にか旅行の日程が
旅行社の組んだスケジュールみたいになってしまい、
一つの都市にわずか二日しか泊っていないという、
あわただしい動きになることが多い。

これではいくら何でも忙しすぎる。
一か所に二泊というのは、
飛行機で下りてホテルに着くまでに時間がかかり、
また飛行機に乗りに行くのに半日流れてしまうので、
街中で使える時間は丸一日しかない。
その間に、観光や、買物をして、時には観劇までして、
その上、おいしい料理も味わって、
ということになると無理が生ずる。最低でも三泊、見る物の多いところや、
買物のチャンスの多い街では、
さらにまた一日、二日泊っても長すぎるということはない。
昔はパリに一週間、ローマに五日間
というスケジュールを組んだこともあったが、
パリやローマは中継地となり、
もっと多くの行ったことのない街に行きたいと
考えるようになると、再び一か所に二泊、
もしくは、三泊のスケジュールに逆戻りしてしまった。

これはどうみても働き盛りの男たちの
あわただしいスケジュールである。
はたしてこれが旅を楽しむスケジュールか、
と周囲から盛んに批判を浴びる。
フランスならフランスに行って、パリは一日か、
二日くらいで出発したとしても
あとはアルザス、ロレーヌとか、ボルドーとか、
プロバンスとか、地方の旅寵屋をのんびり泊って歩くのが
本当の旅ではないのか。
そういわれてみれば、そういう旅の楽しみ方もあるので、
「そのうちに、スペインの田舎と
フランスの田舎まわりだけやることにしよう」とか
「もっと電話のかかってこない生活になれば、
東京へ急いで帰る必要もなくなるから、
ベルギーに一ヶ月、コモ湖のほとりに二週間といった
旅行をすることにしよう、
いつかそういう旅行をすることができるようになるよ」
といっている。

はたしてそういったのんびりした旅行のできる日が来るものだろうか。
電話に追いまわされる生活をしていると、
誰しも電話のかかってこないところに行きたがる。
だが、電話がまったくかからなくなり、
誰からも相手にされないようになると、
のんびりと旅行をする気になるものだろうか。
望むと望まざるとにかかわらず、
いつかはそういった日は必ずくる。
頭がいうことをきいても、
身体がいうことをきかなくなるだろうし、
身体は元気でも、頭のズレが激しく、
誰にも相手にされなくなるかも知れない。
そうなった頃には、そもそもベルギーにーカ月行こうか、
バンコクで半年暮らそうか、
ということになるものかどうか。
むしろそういう日がなかなかこなくて、
いつもバタバタと忙しいほうが
その人にとってしあわせではないのだろうか。





←前回記事へ

2015年2月18日(水)

次回記事へ→
中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」

ホーム
最新記事へ