|  第310回蕎麦屋で昼から酒を飲む
 今週末発刊予定のdancyu12月号は「蕎麦特集号」だが、同じようなグルメ雑誌も蕎麦特集をやっていた。
 今頃から「蕎麦」はやっと旨くなる。
 そば特集を組む絶好の時季といえる。
 しかし、そのグルメ雑誌の最初の記事にあった、
 「昼蕎麦」、「夜蕎麦」という言葉は違和感を覚えた。
 いわく、昼に蕎麦をさっと食べるのが昼蕎麦、夜に酒を飲みながら蕎麦を食べるのが夜蕎麦という定義だが、
 蕎麦屋のいいところは、昼から酒を飲める点である。
 現代社会では昼から蕎麦屋で酒を飲む人は極めて稀といえるが、
 従来は蕎麦屋は明るいうちから酒を飲んで憩う場所であった。
 それが、最近では酒を飲むところというより、
 お昼をささっと食べる場所
 という感覚に思われている人が非常に多い。
 蕎麦屋で飲む昼酒の愉しみは、日本人に生まれてよかったと思うことの一つだ。
 蕎麦屋では、昼から酒を飲んでも罪悪感が少ない。
 それだけ、蕎麦屋で酒を飲むという行為が
 昔からの食文化の伝統としてしっくりとくるからだ。
 仕事の合間に日本酒を飲むということは、
 実際には難しいことが多い。
 しかし、休日や、早めに仕事が終わりそうなときの
 蕎麦屋へ出向いて昼酒をくらうときの快適さといったら、
 他に比べるものがない。
 昼に酒を飲むという行為は、
 世間一般の勤め人が真面目に働いている時間帯に
 自分だけ酒を飲んでいる、という罪悪感というよりも、
 むしろ、優越感を覚えるのだ。
 また、昼から酒を飲もうとしても、大抵の居酒屋は開店していない。
 東京の地酒を扱っている居酒屋で、
 昼からやっている店としては、
 銀座「らん月」の地下の「酒の穴」があげられ、
 そこに昼酒を飲みに行くことはあるが、
 他の客が酒を飲んでいることは少ない。
 その点では、「神田まつや」のように
 昼から酒をちびちびやり、最後に蕎麦をたぐることが
 当たり前となっている蕎麦屋に行くほうが、
 ずっと気持ちがいい。
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