第42回
ノルマンディの恵み
ノルマンディのアルービユ・ベルヴォッセという田舎町に
太い樫の古木がチャペルになっているという
珍しい教会があることを、同行の先生が調べて、
見学に行くことになった。
パリ在住の大学のクラブの先輩の車で連れていってもらう。
チャペルは御伽の国にでてくるような可愛らしいものであった。
ノルマンディの気候は高湿温暖で軟らかい牧草が育ち、
牛は良質なミルクを出すので、チーズ造りに適している。
カマンベール、ポンレベック、リヴァロと
チーズの名産地をつないでいるチーズ街道がある。
ノルマンディで一番古いのはポンレベックであり、
カマンベールは比較的最近生産を始めたものだ。
フランス革命のときに修道院は焼き払われ、
僧は逮捕されていったが、
それを逃れて英国へ渡ろうとした修道僧が
カマンベール村で農場にかくまってもらい、
ブリーの製法を教えた。
1790年のことで、これがカマンベールの始まりらしい。
カマンベールはAOCの申請が遅くなって、
フランス全土で模倣品がカマンベールとして出回ってしまったので、
ここのAOCはカマンベール・ド・ノルマンディと称している。
もう一つ、ノルマンディと言えばすぐに思い浮かぶのは
カルヴァドスだ。
林檎のブランディであるが、
いいカルヴァドスはコニャックよりも個性豊かで、
特に熟成してくるととても面白い。
林檎酸が消化を助けるので、食後酒としても優れているらしい。
カルヴァドスでは、
100年の古木で作ったショートムテルが印象が深い。
随分前に蒸留所を閉めてしまったので、
今では飲むことは不可能に近い。
繊細だが、しっかりとした骨格のある味わいと、
飲み干した空のグラスから
いつまでたっても漂ってくる香りが懐かしい。
今回のノルマンディの旅でも
いくつかの酒屋でショートムテルを探したが、皆無だった。
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