| 第11回海胆とイクラの至福
 築地で仲買が扱う海胆は殻つきと箱入りと二種類ある。素人は殻つきの活きているものがいいと思っている人が多いが、
 プロの鮨屋は箱海胆を仕入れる。
 身のよしあしを見ることができるからだ。
 海胆は品質のばらつきが大きく、殻つきのものははずれも多い。
 また、海胆の旬は夏と思っている人が多いが、
 それは日本海側の話で太平洋側では冬が旬となるので、
 獲れた場所も大切だ。
 今回仕入れたものは、北海道の東側である野附半島の馬糞海胆で、とても美味しそうな赤色をしていた。
 海胆は昆布を食べて育つので、住んでいる海域が重要だが、
 ここらへんは天下一品の羅臼昆布がある。
 だから、とても美味しいはずだ。
 で、海胆はイクラと山芋に和えて提供することとした。
 八方出汁で和えて、海胆、イクラ、山芋が一体となり、
 とてもいいバランスにすることができた。
 山芋のしゃきっとしたさっぱり感と
 海胆のねちっとした甘みが調和し、イクラの塩味の旨みが加わる。
 これは前菜として提供したが、
 さわやかに味覚を刺激すると好評であった。
 椀ものは、蚕豆の冷製スープ。蚕豆を茹でている途中でまだ硬いものを
 いくらかとりおきしておいて、梅酢に漬けておく。
 残りの軟らかく茹でたものを裏漉しして、
 それに八方出汁を加えてかき混ぜながら過熱し、さましておく。
 提供する直前に梅酢につけた蚕豆をスープに入れる。
 蚕豆の旨み、甘みに梅のアクセントがつき、
 さっぱりと美味しく飲めるスープに仕上がった。
 これらに加えて、一週間前から漬けておいた鼈甲玉子を提供。
 これは玉子の黄身を味噌に漬けるのだが、
 美味しい玉子、美味しい味噌を使うことが肝心だ。
 生のまま漬けた黄身が一週間で硬くなり、
 唐墨のような深い味わいとなって、食欲を呼び覚ます。
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