第102回
「大中華経済圏」はもうそこまで来ている その2
これで大家楽もおしまいと思いきや、
どっこい射倖心が死に絶えたわけではないから、
愛国奨券の当たりクジの最後の二桁をあてていたのが、
今度は海をこえて香港競馬の
一等賞の最後のニ桁に移ってしまった。
香港競馬は週に二回あるから、その日になると、
最後のニ桁がどうなったかをきこうとする人々で、
国際電話はおろか、
台湾中の電話という電話が話し中になってしまう。
おかげで電話局は大儲けなのだから、
大家楽のスポンサーを買って出て
当選番号をテレビで発表したらどうだろうかと
私は冗談半分の提案をしたことがあった。
もちろん、電話局が
自分のお客を減らすような挙に出るはずもない。
おかげで、ある時飛行機に乗り遅れた私が
台北の飛行場から何十回ダイヤルをまわしても
国際電話が呼び出せず、航空会社のテレックスを借りて
やっと東京に連絡できたという苦い経験がある。
中国大陸では共産党政府になって以来、
競馬はもとよりのこと、
麻雀に至るまで一切の賭け事を禁じてしまったが、
これは自由に放任しておけば
中国人は賭博に我を忘れて
身を滅ぼしかねないことを熟知した上での処置に違いない。
だから、一概に「お堅いことを」と笑うわけにもいかないが、
人間の射倖心をこれでもかこれでもかと封じ込んでしまうと
ストレスがたまって社会不穏を誘発すると言われている。
深センの株式取引所で暴動が起こったのも
そうした欝積したストレスの現われと見ることができるし、
上海取引所の株価がレシオ100以上まで
無茶苦茶に買い上げられたのも、
他に資金のはけ口がなかったせいだと見ることができる。
これではいけないと言うので、
麻雀を家の中でやるのを大目に見るようになったし、
上海や広州で競馬場を再開する動きも出てきている。
香港にはイギリスの影響もあって早くから競馬場があるし、
アモイにはドッグ・レースがあり、
また最近台湾資本が入って競馬場が完成した。
台湾でも競馬場を許可する動きが出てきているから、
株とカジノは自由経済の鬼っ子と言えるかもしれない。
こうした中国人の国民性から言っても、
中国人の国づくりが商人的、
もしくは投機的色彩の強いものに傾くことは避けられない。
たとえば、いまの大陸政府は香港人、
台湾人の経済力を利用した国づくりに励んでいるが、
香港人、台湾人自身もまた商人的性格の持ち主だから、
いきおい商人的性格の強い国づくりになってしまう。
香港の繁栄の中身は
中継貿易と国際金融によってもたらされたものである。
その富を代表するものは、極端に言えば不動産だけである。
それに比べると、台湾は日本から受け継いだ気風もあって
農産加工をべースにした経済体制からはじまり、
後を追うようにして繊維から電機までの軽工業が発達したので、
工業生産のウェイトが高く、
その輸出だけで年に百億ドルからの
黒字を稼ぎ出せるようになっている。
したがって香港に比べれば、
工業生産の分野で一日の長があるが、
工業が発展して富が蓄積されると、
人手不足で生産事業が採算割れになった。
その一方で地価が上がり、また台湾元が値上がりしたので、
ドル建てで計算したら、
日本と肩を並べる金持ちの国にのしあがった。
わずか二十年の経験にすぎないが、
二十年たってみると、
夢中になってやってきた生産事業は採算割れに追い込まれ、
万一の場合に備えて買っておいた収入向き不動産と
工場の敷地だけが大きな財産として残っている。
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