中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第94回
中国大陸で成功したかったら華僑と組め

さて、中国の官僚制度についてもう少し立ち入って考えてみよう。
さっきも述べたように、中国人の感覚からすれば、
役人は許可をくれる係というよりは邪魔をする係である。

これは東南アジアをはじめ
発展途上国に共通の傾向であると言ってよい。
中国大陸ももちろんその例外ではないし、
台湾もついこの間までは似たり寄ったりであった。

いや、いまもその残津が多分に残っている。
たとえば、十四、五年も前のことであるが、
私が台北市で第二ビルを建てる時に、
そこにつくってあった駐車場を一時移動するだけで
四十五個もハンコをとってまわらなければならなかった。

手続きを簡素化すると汚職のもとになることをおそれて、
どこの国でも間違いの起こらないように、監督官庁をふやす。
すると、お金をくばって歩く部署が
それだけふえてますますお金と時間がかかるようになる。
給料の安い役人にとっては耳寄りな話かもしれないが、
その結果は、すべての許可事項が、
「原則ノー、例外イエス」になってしまうのである。

ハンコの数がふえると、ハソコが一つ足りなくとも、
許可がでない。
仕方がないから法律を無視して許可なしで営業をする人がふえる。
たとえば、最近、台湾に新しいゴルフ場が五十近くできたが、
合法的にオープンまでこぎっけたのは一社もない。

土地法にひっかからなければ、建築法にひっかかる。
環境法にひっかからなければ、
増値税法(土地の評価額が上がるとかかる台湾独特の税法)とか、
娯楽税法にひっかかる。

社会の実情を無視して法律ができており、
時代が変わっても法律の改正が行なわれないから、
それが手伽足伽になる。

しかも監督官庁が相互に矛盾した規制をするから、
法律を遵守する人よりも
ヤクザな考え方をした人が気をもまないですんでいる。

実は、私も台湾にゴルフ場をつくった一人だが、
法律どおりにやったのであっちにひっかかり、
こっちにつかまってさんざんな目にあった。

「どうして法律がこんな出鱈目にできているんでしょうね」
と嘆いたら、
私より一足先にゴルフ場をつくった台湾の名士の一人が、
「ゴルフ場の中請をするからそういう目にあわされるのですよ。
一番いい方法はゴルフ場の申請をするかわりに
緑地公園をつくる中請をすることです。

そうしておいて公園の中に
ゴルフ・コースをつくってしまえばいい。
ゴルフ場の申請をしていないから、法律に引っかからない。

監督官庁も中請されていない案件は取り締まりに来ない。
税務署は税金さえ払えば、
正式のライセンスがあるかどうかにこだわらないから、
誰も言いがかりをつけて来ない。
治外法権でゴルフ場をやっているようなものですよ」
と教えてくれた。

そう言われてみれば、
私の友人の中には無許可のまま
自分の私有地の中にゴルフ・コースをつくってしまい、
既成事実をつくってから事後承認に持ち込んだ人がある。

ゴルフ場を建設する場合に日本人がこんな発想をするだろうか。
もちろん日本でもゴルフ場建設に対する規制がきびしくなって、
業者はその陰で泣いている。
泣きながらも何とか審査をパスできるように努力している。





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2012年11月10日(土)

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