中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第93回
「会社」社用族をしのぐ「社会主義」社用族(4)

人民政府になってからも基本的には同じことであるが、
いまの中国では一万元(約二十万円)のワイロをとったことが
バレたら、死刑に処するという法律がある。

こんなわずかな金額で極刑にあうということは、
いままでワイロを稼ぐチャンスが少なかったせいもあろうが、
そのわずかのワイロにも食指を伸ばす役人が多い
ということでもある。

開放政策が国是となって、
海外からの投資がふえると、ワイ口の額も桁が違ってきた。
一万元の現金をワイ口にもらったら死刑になるけれども、
一晩一万元かかる食事やカラオケ・バーに招待されても、
おとがめはない。

だから、上海へ行っても、北京へ行っても、
どこのレストランも毎晩毎晩、超満員である。

たまに私が席を設けて要路の人を招待する。
十人で食事をしてまわってきた勘定書を見ると、
三千六百元といった金額になっている。

十人で七、八万円は日本では驚く金額ではないが、
一人分がサラリーマンの一カ月分の給料に相当するのでは、
アンバランスもいいところであろう。

かつて日本では社用族が社会問題になったことがあった。
いまの中国では戦後の日本より
もっと極端な社用族が横行している。

日本の社用族は少なくとも
会社の利益追求を背負った上での社用族であったが、
社会主義中国の社用族には、
国に代わってお金を使う気迫は見えても
国のために儲けてやろうという気構えはどこにも見当たらない。

基本的に公共の利益を優先させる観念が乏しいから、
このままで開放政策が進めば、
中国の経済が発展することは間違いないけれども、
再び貧富の差がついて
元の木阿弥になってしまう心配がないとは言えない。





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2012年11月9日(金)

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