中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第92回
「会社」社用族をしのぐ「社会主義」社用族(3)

おそらく日本人にとって最大の障壁は
悠久五千年の錆と垢のついた官僚システムであろう。

共産主義になってから官僚の気風が刷新され、
汚職がなくなったと思ったらとんでもない話で、
悪い習慣は常に引き継がれるものであると思えば間違いない。

中国に行って真っ先にぶつかるのは官僚社会という鉄壁である。
ついでそういう社会を生き抜いてきた中国人の利己主義である。

かつて関東軍の力をもってしても、
そういう牙城を攻めおとすことはできなかったのだから、
いま頃言葉もろくにわからない日本人が
お金と技術だけ持ってのこのこ出かけて行って
勝負に勝てるものだろうか。

たとえば、共産主義によって築かれた新しい人民政府は
過去の体制を否定してできあがったものだから
新しいと思うのは間違いで、中国的表現で言えば、
「スープが入れかわっても、具は同じ」
と思うべき性質のものである。

隋唐の昔から連綿と続いてきた官僚制度の悪いところは
依然として受け継がれており、
権力の集中を防ぐためにつくられた責任の分散は
非能率を絵に描いたような結果をもたらしている。

この三、四十年のように共産主義のタガをはめられ、
お金儲けのチャンスがすべて凍結され、
誰もが同じように貧乏にあえいでいた間はまだいい。

いよいよ金蔵に風穴があいて、
そちこちからお金の匂いがしてきたようなものである。
そこへどっと「金食い虫」が集まってくるのは目に見えている。

どこの国にも似たような傾向はあるが、
とりわけ中国の役人は許可をあたえる係というよりは、
邪魔をする係といったほうが真相に近い。

もう一度、中国の笑話に登場していただく。
ある役人があまりにワイロを取りすぎるので、
公共便所の門番に左遷された。

「いくら何でも公共便所の門番ではお前もお金がとれまい」
と友人が笑うと、本人がむきになって言った。

「心配するな。方法はいくらでもある。
便所に入りたい奴を入れないようにし、
便所に入りたくない奴を中に押し込めば、
どちらからもお金はとれるさ」。

これは歴代笑話集に出てくる笑話の一つだが、
いくら時代が変わっても悪代官の悪知恵は尽きない。





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2012年11月8日(木)

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