第84回
質屋を見れば経済感覚の違いがわかる その4
日本人と中国人の金銭感覚の違いを
最も端的に現わすものは何といっても質屋であろう。
金持ちになってからの日本では、質屋が姿を消し、
サラリーローンとか、クレジット・カードに
座を譲るようになったが、
昭和二十九年頃、私が小説家になるべく日本へ舞い戻った時は、
まだ東京中どこの町にも質屋があったし、
商店街の電信柱という電信柱に質屋の広告が出ていた。
どうして質屋の広告があんなにたくさんあったかというと、
質屋はたいてい、人目につかない横丁にあって、
広告に誘導されないと辿りつくことができなかったからである。
ではどうしてそういうところにあったかというと、
貧乏をして質屋通いをしたりするのは
日本人にとって恥ずかしいことであり、
質屋に入るところを人に見られたくない
という心理が働いていたからである。
夜逃げをして見知らぬ町に引越しをする。
子供の具合が悪いので医者を呼びたい時は、
隣家の人にきくことができる。
ところが、ふところ具合が悪いからといって
質屋はどこですかときくことはできない。
そういう利用者の心理を心得ているので、
曲り角という曲り角には質屋の看板が出ている。
駅前の商店街に出さえすれば、
誰に教えてもらわなくとも
質屋を探しあてることができるようにできているのである。
質屋は大体が人通りの少ないところにあって、
利用者はまず周辺に人影がないのを確かめてから
質屋の戸をあける。
そこは心得たもので、
質屋の戸はよく滑るように油が塗ってあって、
音もなくひらくようにできている。
中国人にはそういう神経は全くない。
中国人にも貧乏人は多いし、貧乏の歴史は長い。
しかし、貧乏を恥ずかしいと思う人は少ない。
金持ちになっても、お金のない話をするくらいだから、
貧乏人がお金のないことを話題にするくらい何でもない。
お金がなければ質屋にお金を借りに行く。
銀行がお金持ちの金融機関だとすれば、
質屋は貧乏人の金融機関である。 |