中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第70回
共産主義の一番似合わない国民 その4

北京の周辺、上海から蘇州に行く
江南地域の立派な農家の並びを見たら、
中国の農民が貧しいとはとても信じられないだろう。
実はそれは農産物の市場経済化がもたらした新しい光景であり、
農業の分野で真っ先にやった実験が
以上のような結果をもたらしたので、
中国じゅうの人たちがこの道以外に
自分たちを豊かにする方法がないことに確信を抱くようになった。
どんな保守派の実力者も
この事実を認めないわけにはいかなくなってしまったのである。

開放政策があまりに急テンポで進むなかで、
そのうちに反動が来て保守派の天下に戻るのではないかと
危倶する声もよくきかれる。
過去の中国をよく知るいわゆる中国通の間に
特にそういう意見がみられる。

たとえば、ケ小平が生きている間は
反対派が影をひそめているからいいが、
ケ小平が死んだら大きな揺り戻しがあるのではないかと、
どの新聞も必ず書いている。

世の中が自分たちが予想していたのと違う方向に進むと
一言なかるべからずという心理は理解できないではないが、
この道以外に国民全体を豊かにする道がないことを発見したのは、
ほかならぬ中国の人民であって、
共産党でもなければ、官僚たちでもない。

だから、誰があとを継いでも、
もうあと戻りはできないのである。
いまの中国人にはもはや保守派というのは残っていないのである。
ケ小平の死後、政権をめぐる争いが起こることはあっても、
路線をめぐって経済論争が起こることは考えられない。
八大老人による支配も、
一人また一人と歯の抜けるように抜け落ちていって、
やがて経済の発展を最大の政治目標にした
テクノクラートの時代が来る。
「ケ小平のあとはどうなるのですか?」ときかれて、
北京大学のさる教授が(本人は匿名希望)、
「いまの中国では年寄の誰が死んでも国のためになるのです」
とニューズウイークの記者に答えていたのが印象的であった。
十二億人によって確認された流れを
一人や二人の力で逆流させることは不可能と言ってよい。
ましてソ連や東欧における共産主義の崩壊を目のあたりに見て、
その上で選択した新しい道であってみれば……。





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2012年10月16日(火)

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