中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第52回
日本が会社社会なら中国は人間関係社会 その3

中国人は、人間関係を細かく調べ出して、
権力者にとり入ろうとする時は、
本人よりもその息子とか娘とか弟・妹、
はては奥さんの兄弟まで触手をのばす。

周囲の者が自分の息子や娘たちのために
地位や財産を築く道までひらいてくれれば、
本人としても嬉しくないわけはない。

このことは、資本主義とか、共産主義とか、
体制の違いと関係なく、中国人に通有のおべんちゃらである。

蒋介石にその気がなくとも、まわりが太子を擁立して
蒋経国にあとを継がせようとする。
もし蒋経国が「自分のあと、
蒋家の人々が政府を引き継ぐことはないし、
自分にそのつもりもない」と内外に宣言し、
その動きを自ら封じていなければ、
おそらく周囲は長男の蒋孝文や
次男の孝武をあとに推さなかったとしても、
経国の弟の蒋緯国にお鉢がまわっていたことだろう。

蒋経国の場合は、夫人がロシア留学中に結婚した
ロシア人であったために、
それも選りに選って共産主義の
本家本元のロシア女性との間に生まれたハーフであったから、
問題はそう簡単ではなかった。

継母である宋美齢との間の折り合いもよくなかったし、
異母弟の蒋緯国にもいまひとつあとを継がせる気になれなかった。
いや、そういうことよりも、
世の中はすでに世襲制の時代でないことを蒋経国は見通していた。

そういった「上からの民主化」を自分の手で推進した。
異才の政治家さえも、子供たちをちやほやされ、
スポイルされるのをついに避けることができなかった。

蒋経国の生前に息子たちがどんなに猛威をふるい、
父の死後どういう運命を辿っているかは
台湾の人たちなら誰でも知っているとおりである。

台湾のような狭いところでも、
権力者の二代目が閣僚の座についたり、
中央銀行の総裁になったりした例は珍しくない。
役人にならなかった場合でも、
飛行場のデューティ・フリーの店の特権を手に入れるとか、
電力会社に石炭を納入する特権を壟断するとか、
あるいは、公共工事の特命業者になるとか、
利権の周辺はことごとく二代目によって占められている。

こうした連中は太子派(皇太子派)とか
太子党(皇太子党) とか呼ばれ、
目にあまる専横な振舞いがあっても、
誰しも見て見ぬふりをしている。
その代わり権力者が死ぬと、自ずから利権離れが起こるが、
もうその頃には一財産築いてしまっている。

これが世襲制のなくなった中国での権力者たちの
人間関係を利用した財テク術だ、と思えば間違いない。
こうした錬金術は共産党の天下になっても、少しも変わりはない。
革命によって過去の悪弊はすべて一掃されたと思ったら、
とんでもない勘違いで、
太子派の猖獗ぶりはますます手に負えなくなっている。

開放政策がはじまると、それが国際的スケールに拡大されてきた。
いわゆる八大老の子供たちが政府のどんな地位についているとか、
北京や上海や海南島でどういう振舞いをしているとか、
日本の新聞にまで時々特集されるようになっているが、
それを糾弾するのを見たことがない。

そんなことをすればどこでカ夕キを討たれるか
わからないという心配もあるが、
長い間の知恵が身についていて、
こういう時は
保身に心掛けるのが中国人のやり方だからであろう。





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2012年9月28日(金)

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