第33回
職人と商人とでは喧嘩にならない その2
商取引に怒鳴りや怒りは禁物である。
商売をスムーズに運ぶためには、
たとえ最終的には自分のところに帰ってくる客とわかっていても、
少々値切らせて相手に花をもたせるのが
中国人と取引をする時のコツである。
値切られることを覚悟の上で高目に値をつけて値切らせたほうが、
最初から安値でオファーするよりは、
ずっと相手を満足させることになる。
日本人のなかにはたったこれだけの簡単な常識も知らないために、
どこでも物は定価で買うものと勝手に思い込み、
台湾や香港や中国大陸に行って
定価通りに物を買ったりする人がある。
お土産屋さんにとって、これほど有難いお客さんはいない。
というのは、どこの国に行っても、
観光客の来るお土産屋では、
仕入れた値段の三倍くらいに値をつけている。
それを定価通りに買ってくれたら、笑いがとまらなくなる。
外国に行くと、日本人はしばしばそういう上客になる。
一事が万事こういう調子だから、中国人からみると、
日本人はお人好しにみえる。
日本人からみると、中国人は煮ても焼いても
食えないすれっからしにみえる。
それなら日本人はみな中国人にだまされて
お金をまきあげられて貧乏しているかというと、そうでもない。
日本人は物をつくって付加価値で稼ぎ、
中国人は物を売って差額を儲ける。
職人と商人の違いがそこにある。
日本人が中国人と会う時は大阪商人と一緒にいると思えばよい。
大阪商人のそのもう一枚うわての本家本元の商売人と思えばよい。
もっとも大阪商人は、もともと日本人だから商売をやる時も、
物をつくっている人のつもりになって物を売る。
中国人は根っからの商人だから、物をつくっている時でも、
物を売っているつもりで物をつくる。
だから、儲かるとわかれば、わぁッと集まって
有り金をごっそり注ぎ込んで盛大に生産をするが、
儲からなくなった途端に店をたたむように工場も閉めてしまう。
日本人が物をつくるに際して品質を重んじ、
付加価値に重点をおくのに対して、
中国人は採算を重視し、コスト・ダウンに努力する。
この差はメイド・イン・ジャパンと
メイド・イン・夕イワンや
メイド・イン・ホンコンの差になってあらわれる。
どちらもアメリカに輸出されていながら、
競合関係に立たないですんでいるのは、お客が違うからである。
今後、香港と台湾の工業力が大陸に結集されて
中国全体が急速に工業化されることは
ほとんど既定の路線であるが、
日本人と中国人の性格の違いからみても、
少なくとも当分の間は、
対アメリカ貿易でお互いにお客の奪い合いをする
ライバル関係にはならないと私は見ている。 |