第34回
中国人に理解できない公益優先の思想
中国人と日本人と比べて一番違うところはどこだろうか。
それは中国人の行動原理が利己主義(家族も含めた)
を中心としているのに対して、
日本人がグループの利益もしくは、
公益を優先させていることではないかと思う。
中国人のことを少ししか知らない日本人は、
中国人が義理人情に厚いのを見て、
「中国人はさすがに大国民だ。ふところが深い」
としきりに感心したりするが、
それは名刺をかわしただけの人に対しても、
暑中見舞や正月の挨拶状を几帳面に寄越すとか、
友人の紹介状を持って訪ねてきた人に、
初対面でも下にもおかぬ扱いをした上に
盛大にご馳走までしてくれる、
といった卑近な体験からくる印象である。
紹介状を持参した人を大事に扱うのは、
紹介状を書いた人に対する礼儀であって、
紹介状を持参した人を尊重しているわけではない。
中国人は人間関係をもっとも重視する。
したがって自分が親しくしている人からの紹介であれば、
真っ先に考えるのはその友人の顔を立てることである。
そうしたていねいな扱いを受けた人が帰ってきて、
「本当に親切にしていただきました。とても助かりました」
とお礼を言ってくれば、こちらとしても鼻は高い。
そうやって新しくできた友人に対しても、
同じように中国人は時候の挨拶を欠かさない。
新しい人間関係をつくることを
大切なことと思っているからである。
中国人は基本的に政府とか政治に対して不信感が強い。
社会の善意などまるであてにしていない。
そういうきびしい浮世にあって頼りになるのは、
血のつながりのある家族だけである。
次が味方になってくれる友人である。
本当の友人なんてそんなにたくさんいるものではないから、
縁あって友人になってくれた人をことのほか大事にする。
そういった場合の中国人の礼儀正しさと
利害をこえた親切さに接すると、日本人はいたく感激する。
ところが 実際に中国人の中に入って生活をはじめると、
日本人は正反対の印象を持つようになる。
台湾でも香港でも、あるいは中国大陸へ行っても、
実際に接する中国人は約束を守らない人が多い。
お金には細かいし、お金にきたない。
明らかに自分の過失であっても決して謝ろうとしないし、
いつもいいわけばかりしている。
それでいて自分が一番えらいと思い込んでいるし、
明らかに自分の過失であっても、
平気で責任を転嫁して自分自身に対しては
これっぽっちの反省もない。
「こんな卑小な人間の集団が何で大国民なものか」
と恨みつらみを言うようになる。
もちろん、こうした中国人観が生まれるのも、
それなりに理由のあることだから
一概に間違いとは言えないけれども、
そもそも中国人を
ふところの深い大国民と思い込むのも間違いなら、
中国人の本性を知って三文の値打ちもないように
こきおろすのも行きすぎであろう。
真理は多分、その中間くらいのところにあって、
長い間、中国人の社会に入って一緒に生活をするようになると、
中国人がなぜそういう行動原理をとるのか、
またなぜそういう処世術を持つに至ったか、
少しずつ理解できるようになる。
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