第14回
チーズと納豆で中国人があぶり出せる その1
先にも述べたように、中国人は、
およそ食べられるものは何でも食べる。
それは中国人が食べ物に対して貧欲なせいもあるが、
長い飢餓の歴史を生き抜いてきた証拠でもあろう。
その中国人が唯一つ食べないものがある。
それはチーズである。
「チーズの出てこない食卓は片目の美人みたいなものだ」と、
いくらフランス人が言い張っても、
中国人の大半は料理のあと出てくるチーズには手をつけない。
モンゴール人は中原を征服して元王朝を打ち立てたが、
どんなむごいことでも
中国人に強いることのできたフビライでも、
中国人にチーズを食べさせることはついにできなかった。
どうしてそうなのか、本当のところは私にもわからない。
あの匂いが耐えられないのだと中国人は一様に首をふる。
それなら、上海の臭豆腐のあの匂いはどうだ、
澳門の鹹魚のあの匂いはどうだ、と切りかえしたくなる。
ミルクを腐敗させて発酵させた食べ物こそないけれども、
中国には豆腐を発酵させてつくった腐乳とか、
里芋を発酵させた南乳とかいった植物性チーズはある。
腐乳や南乳にはさしたる悪臭はないけれども、
上海人の好んで食べる臭豆腐は、
油で揚げている間もあのくさい匂いが遠くまで届くから、
日本のラーメン屋のようにチャルメラなど吹かなくとも、
五十メートルも先にきたらすぐにも
「臭豆腐の屋台が来たな」とわかってしまう。
日本人なら匂いを嗅いだだけで
思わず鼻をつまんでしまう腐った豆腐が食べられて、
チーズは食べられないというのでは
リクツに合わないとしかいいようがない。
しかし、現実に中国人を連れてフランス料理屋に行って、
チーズが出てくると、十人のうち九人までが
「遠慮させていただきます」と首を横にふる。
私など自分の会社の若い台湾人や香港人を連れて
ヨーロッパを旅行することが多いが、
チーズを断わるのを見て、
「もったいない。食べなくとも値段は変わらないのだから」
と、いくらすすめても、絶対に食べようとしない。
勘定高い中国人にしてこの有様だから、これは只事ではない。
では、中国人は中華思想の塊りで、
よその国のものは一切受けつけないのかというと、そうでもない。 |