|  第89回自社の強みに特化する
 シャンパンが空になったので、香港人の総経理は奥さんに赤ワインを持ってこさせました。
 酒の弱い当社の中国人幹部の1人は
 すでに顔が真っ赤になっています。
 赤ワインのコルクを自分で開けながら、総経理は話を続けました。
 「Q's CAFEの商品は以前から知っていました。良いものを作っていると。
 しかし、その当時のQ's CAFEはまだ市内に2店舗しかなく、
 とても当社のOEMをやってもらうという発想は湧きませんでした。
 きっかけは、イトーヨーカ堂の中で、
 改めてQ's CAFEの商品に出会ったときです。
 よく売れているようだったし、
 新たに工場を作ったとも聞きました。
 そこで、我々へ商品を供給してもらうことができないか
 と思ったんです」
 私たちは2回目の乾杯をして、赤ワインを飲み始めました。香港人の総経理もちょっと顔が赤くなってきました。
 総経理が続けます。
 「荒木さん、なんで我々の会社が世間から一定の評価を受け、
 利益を上げることができるのかわかりますか?」
 と質問を受けました。
 「うーん、御社は包装や店舗の装飾が
 個性的で非常にきれいですよね。
 贈り物でもらってもうれしいレベルですから。
 北京ではなかなかないと思います。」
 総経理が頷きながら答えます。「ひとつは徹底的に好条件な立地に出店してきたこと。
 ふたつは高粗利がとれる高額商品の販売力があるからです。
 すなわち、先ほど荒木さんも包装が綺麗といいましたが、
 市場に受け入れられるデザイン力が当社にはあるのです。
 当社ではデザイン専門のスタッフを3人もおいているんですよ。
 こんなベーカリーは中国中さがしても
 当社以外はないんじゃないでしょうか。
 断っておきますが、荒木さんが我々と同じような場所に
 『同じような条件』で店舗を構えるのは難しいですよ。
 我々は何年もかけて
 政府の高官や有力者とのパイプを作り上げたんです。」
 ここまで話を聞いて、香港人の総経理が言いたいことがはっきりとわかってきました。
 総経理が自分でワインを注ぎ足しながら続けます。
 「私はユニクロの柳井社長を非常に尊敬しているんです。私は広州でアパレルの会社も経営しているのですが、
 私の理想としているビジネスモデルを柳井社長は実践して、
 大成功を収めているのです」
 業界は衣料と食品と全く違いますが、
 この香港人の総経理も
 自身が得意とするマーケティング力を更に強めるために、
 不得意である製造をOEMという形で切り離そうと考えていました。
 『得意なことにすべてを集中させる』
 総経理は私が理解していることを確認すると、紙とペンをお手伝いさんにもってこさせました。
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