新入生、荒木尊史さんのQさん経営学実践奮闘記

第85回
社会主義のなごりを留める中国の労働法

最近、ちょっとした事件が発生しました。
以前のコラムでもご紹介しましたが、
今年の中国は出産ラッシュです。
当社でもすでに何人かが産休に入り、
何人かが産休から復帰し、何人かが妊娠中です。
皆、他のスタッフの協力もあり、上手くやっているようでした。

その様な中、違和感を最初に覚えたのは6月頃だったでしょうか。
事務方のスタッフの何人かの“おめでた”がわかり、
少したった頃です。
最初の頃は私も皆に混じって喜び
“産休の間の代理人さがしは頭の痛い問題だけど
何とかしなきゃな”
と前向きに思っていました。
しかし、そんな思いとは裏腹に
仕事に対する態度、私に対する態度が急変したのです。
これはお店のスタッフや工場のスタッフが妊娠した時には
無かった変化でした。

なんという表現がわかりやすいのでしょうか。
“妊婦の女王”と化したのです。
最初のうちは、
「私は妊婦だからお金を数える仕事はできません。
お金には黴菌がいっぱいついています」や、
「私は妊婦だからお客様の所にいくことはできません」
「事務所の空気が悪いので散歩してきます」といわれても
“そんなものかな”と黙っていました。

しかし、体調不良や
異常な頻度の検査日を理由にした休みがドンドン重なり、
自身の仕事の遅れが
他のスタッフの業務にも大きな支障をきたし始めました。
そこで見かねて注意をすると逆切れされる始末です。
妊娠中はイライラするとも聞いたことがあったので、
我慢していたのですが、
結果としてこれが裏目にでてしまいました。
周囲のスタッフが私より先に我慢の限界にきてしまい
「あの妊婦達を何とかしてくれ!」と詰め寄ってきました。

出産は人生における一大イベントです。
それを応援する気持ちは私も含め、
周囲のスタッフも同じはずです。
なぜ、皆がぶつかり合うほどの問題に発展してしまったのか。
その答えは中国の労働法による“妊婦の保護”にあります。

中国の労働法では、
妊娠期間中から出産後1年までの約1年と10ヵ月の間、
配置転換や給与調整は本人の同意を必ず必要とし、
完全に保護されているのです。
だからと言ってこの問題を放置しておくわけにもいかず、
もっともやる気の薄れていた妊婦のスタッフ1人に、
それ相当のお金を支払って自主的に会社を辞めてもらいました。
それからは、なぜか他の妊婦も
以前のような常識を逸脱した行動や言動が激減し、
またいつもの活気のある事務所が戻ってきました。

ちょっとだけですが、
社会主義体制時代だった中国を垣間見たような気がしました。
あまりにも一方の権利が極端に強いと、必ずほころびが生じます。


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2007年9月11日(火)

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